きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
  神田は少しどもりつつ摩耶の行き先を告げる。
 「どうして銭函の伯父さんのところと分ったの?」
 (お母さんもこっちの痛いところを突いてくるねぇ)
  内心ではそう思いながらも、
 「由香ちゃんから、聞いたのさ、摩耶ちゃんは時々銭函の伯父さんところの猫の話
をするって」
  嘘の答弁をする。
 「猫?ちょっと失礼」
  猫と聞いた母親は突然腰を上げる。
 「摩耶、伯父さんのところで猫に触ったでしょう?早く服を全部脱いで、シャワーを
浴びるのよ、今度黙って行ったら許さないから」
  2階の娘に聞こえるよう階段から大声を上げる。そして戻りがてら目線は神田の
服装を調べているような気がした。
 (やれやれ、摩耶ちゃんも俺もとんだ災難だ。これなら本当の事を言った方が良
かったかも・・・・・・)
  神田は摩耶の苦労が少し分った気がした。
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 「あの娘は父親に似て動物が好きなんです」
  神田の目の前に戻った母親が言う。
 「動物が好きな子供に悪い子はいませんよ」
  神田が摩耶の肩を持つ。
 「あんな臭い物、どこが良いのですかね、毛も散らかすし・・・・・・」
  と言いながら、母親はテーブルの上を無意識に布巾で拭いている。
 (まさしく潔癖症だ。そう言えば、この家にはゴミやほこりが一つも見当たらない。
これは息が詰まるよ、お父さんが出て行ったのも分るなあ、俺も早く退散しなきゃ)
  神田は車のキーを取り出し帰る準備をする。
 「とにかくお嬢さんは無事に戻ったのですから、あまり怒らないでください。お嬢さ
んは何も心配はいりません、想像以上にしっかりしていますから」
  神田は父親の前で取った摩耶の行動を思い出していた。
 「何がしっかりしているもんですか、皆さんにご迷惑ばかりおかけして・・・・・・・」
  母親の律子がしきりに恐縮する。
 「それじゃあ」
  と別れを告げる。
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 「本当にお世話になりました、ありがとうございました、助かりました、これで今日は
ぐっすり眠れます」
  母親は深々と頭を下げ、階段下へ向う。
 「摩耶、神田さんがお帰りよ、早く降りておいで」
  お母さんが2階に向って叫ぶ。ばたばたと音がして摩耶が下りて来る。
 「おじさん、今日は本当にありがとう。そのうちまた猫じゃら工房に行きますから」
  摩耶は何事もなかったかのように晴れ晴れとした顔をしていた。
 「おう、元気でな、また会おう」
 
  三鉢家の内情を嫌と言うほど知らされて、神田は家路に着く。
 (世の中いろんな事があるもんだ)
  神田は札幌新道を戻りながら、今日一日を、いや夕方の出来事を思い起こしてい
た。
  父親と母親の狭間で揺れる子供摩耶、両親それぞれの言い分があろうとも子供
には過酷な運命である。
  初めてとも言える父親との面会を阻止してしまった神田、相手の幸せを思いそれ
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を受け入れた娘摩耶、どちらも大きく傷ついて帰ってきた。
  神田は千歳から帰り道に摩耶が話した銭函の伯父さんの話を思い出していた。
 「銭函の伯父さんはねぇ、奥さんを亡くしてから独り暮らしなの。伯父さんは独り暮
らしが寂しくなって、他人が捨てていった子猫をみんな拾ってく
るの。だいたい40
匹ぐらいかなあ、家の内も外も猫がいっぱいいるの、拾われた子猫は伯父さんを親
だと思って足元にすり寄ってくるの。それは可愛いわよ。大きくなったら避妊手術を
してやって病気になったら動物病院へ連れて行くのよ、少ない年金は餌代と病院
代でみんななくなってしまうの・・・・・・それはたいへん・・・・・・ご近所からも五月蝿
いとか、臭いとか苦情を言われてね・・・・・伯父さんは『捨てていった猫を拾ってやっ
てどこが悪い、飼うだけ飼って、捨てていった人間がいちばん悪い。捨てられた猫に
罪はない、捨てていった人間がいちばん悪い』と自分の信条を曲げないの・・・・・・
私もねぇ、大きくなって事情が許せば猫を飼いたいの・・・・・・こんなところも父親に
似ているのかなぁ」



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第5話 少女誘拐  その6 ★★★★★★






















           

         



































































































































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