きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
  麻耶は初めて見る父親の新しい家族と明るく灯が灯る家を車の窓からじっと見て
いた。両目から涙がこぼれていた。
 「車を出していいかな?」
 (あんまり駐車場に長くいては怪しまれる)
  神田は心の中でそう思っていた。麻耶の返事がないまま神田はエンジンをかけ
車を出した。帰りの高速の中でも摩耶はひっそりと泣いていた。
 (由香ちゃんの言うとおりなら父親とは初対面に等しい。衝撃的で残酷な対面だっ
たに違いない)
  神田は麻耶の気持ちを考えると胸が痛んだ。しかし、神田は摩耶を見つけた瞬間
から空腹を覚えていた。
 「麻耶ちゃん、おじさん腹減った。何か食べて行こうよ」
  彼女の返事を待たず、神田は島松パーキングエリアに入って行った。
 「おじさん、ありがとう」
  車を止めると、麻耶が後部座席から礼を言う。そしておもむろに鼻をかんで涙を拭
いて神田の後をついて来る。今まで気がつかなかったが麻耶も猫じゃら新鮮組のT
シャツを着たままだった。
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 「何を食おうか?」
  券売機の前で神田が麻耶にきく。
 「カレーライス」
  麻耶は鼻水を拭きながら答える。
 「よし、おじさんもそれにしよう」
  2人は黙々とカレーのスプーンを口に運んだ。麻耶のしゃくり上げがだんだん減っ
てくる。傍から見ると爺さんと孫のまことに微笑ましい光景である。
 「おじさん、お水もう一杯飲む」
 「ああ」
  お腹がふくれて一息ついたのか、麻耶の動きが活発になる。
 「おじさん、ソフトクリーム食べたい」
 「おお、いいよ。これで買って食べていなさい。おじさんはトイレに言ってくるから」
  そう言って神田は男性用トイレに向う。
 「お母さん、摩耶ちゃんが見つかりました、元気です。後30分ぐらいでお宅に着きま
す。詳細は後ほど」
  と母親の律子に電話する。
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  今度は神田の自宅に電話をかける。
 「美代子、麻耶ちゃんが無事見つかったよ。これから彼女を北36条の自宅へ送り
届けて帰るから10時近くになるよ」
 「そう、良かったわ、あんた夜道気をつけてね」
  妻の美代子は安堵の胸を撫で下ろす。
  売店に戻ると麻耶は木のベンチに腰掛けソフトクリームを無心に食べている。 神
田は摩耶が食べ終えるのを待って車に乗り込む。
 「おじさんがあの場に来てくれなかったら、私、何をしていたか分らなかったよ。お父
さんに向って『あなたの娘、麻耶よ。何で今まで迎えに来なかったの?』って大声で叫
んでいたよ」
 「良く思い留まったな?」
 「おじさんが来てくれて良かった、あのまま告白したらあの家族の幸せを壊してしま
った、そして『なんて娘だ』と私は一生お父さんから恨まれたと思う」
  (彼女にすれば「私を長い事放って置いて父親の責任はないのか?」と言いたかっ
たに違いない・・・・・・)
 「お母さんは娘を取られると思って、未だにお父さんに会わせてくれないの。お母さ
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んの気持ちも分かるけど、お父さんの気持ちと娘の気持ちはどうなるの?お父さんは
私に会いたくないのか?」
  麻耶は神田に訊ねる。
 「そんな事は絶対ないと思うよ、会いたいけど我慢しているんだ、父親ってそういうも
のだ。お母さんは向こうの家庭の事を考えているのかも知れないし・・・・・・」
  神田はバックミラー越しに麻耶と会話していた。
 「本当に大人の考えは分からないよ・・・・・・」
  摩耶はつぶやく。
 「それで初めて会ったお父さんはどうだった?」
  神田は話題の方向を少し変えてみる。
 「実物を初めて見たけど、すごく格好良かった。おじさんよりね。友達に見せてあげた
いくらいさ。母親違いの弟もお父さんに似て美男子だよ、すっごく可愛いかった」
 「おじさんよりは余計だがね、麻耶ちゃんもお父さんに似て美人だよ、父親に似た娘
は幸せになるって」
 「そうかなあ?」
  そう言いながらも摩耶は嬉しそうである。
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第5話 少女誘拐  その4 ★★★★






















           

         




































































































































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