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忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー

    
 「わはは、あれだけ吠えたのに木枯先輩が映っていないや」
  猫じゃら工房の最初のイベントを終えた神田は家に帰ってテレビを見ていた。地元
のTV局が午後6時のローカルニュースで猫じゃら新鮮組の隊員募集を報道してい
た。
 「あんただって映っていないでしょ?」
  夕食の支度をしている妻の美代子が神田の背後から返事する。
 「俺は仕掛け人さ、あくまでも黒子だよ」
  そう言いながらも神田はテレビの画面に釘付けである。
 「若者が猫じゃら小路の清掃に汗を流しました。最近元気のない猫じゃら小路商店
街の賑わいを取り戻そうとの活動です。ボランタリーで河川や公園の清掃をするのは
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珍しくありませんが、商店街を応援するのは初めての試みです」
  アナウンサーの音声とともに楽しそうにゴミを拾って回る若者とそれを不思議そう
に見つめる通行人の姿が映し出される。
 「あんた、猫じゃら新鮮組をテレビに取り上げてもらって良かったんじゃない?」
  妻の美代子が夫の労をねぎらう。
 「うん、これからが本番さ、猫じゃら小路再生計画は始まったばかりさ」
  こう言って神田はお茶をぐっと飲み込んだ。

  この時である、神田の携帯電話が鳴ったのは・・・・・・
  見慣れない電話番号だったが、何となく不吉な予感がして電話に出る。
 「はい、神田ですが・・・・・・」
 「神田さん?私、三鉢 麻耶の母親の律子です」
  相手は高ぶる感情を押し殺すように話す。
 「麻耶ちゃんのお母さん?」
  神田も相手の緊張に釣られ返す声もぎこちなくなる。
 「あなた、うちの麻耶を返してください!」
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  張り詰めた風船がはじけるような言い方だった。その声は知りたくない事実に直面
するかのようにこわばっていた。
 「返してくれ?」
  突然に身に覚えのない話をされた神田は思わず大声になる。驚いた夫の様子に妻
の美代子が思わず聞き
耳を立てる。
 「あなたが麻耶をかどわかしたのでしょ」
  言いたくない言葉をようやく発した彼女はため息をつく。
 「かどわかす?とんでもない、お母さん、麻耶ちゃんに何かあったんですか?」
 「・・・・・・あの娘が帰ってこないのです」
  少し間を置いて話す母親は明らかにうろたえていた。
 「お母さん、どうか落ち着いてください。私は確かに今日の昼、イベント会場で娘さ
んとお会いしましたが、そのまま別れましたよ。麻耶ちゃんはお友達といっしょに帰っ
たのでは?」
 「それが帰って来ないのです」
  神田の親切な落ち着いた答えに彼女は自分の思い込みを恥じるかのようにか細
い声を出す。
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 「お友達の家では?」
 「みんなに聞きました、それが何処にもいないのです」
 「本人の携帯に電話しました?」
 「しましたが電源を切っているのか出ないのです。心配で心配でもう、私、警察に頼
もうかしら・・・・・・」
  気丈夫なお母さんの声がだんだん涙声になってくる。
 「ちょっと待ってください、旦那さんは?」
 「・・・・・・おりません、私たち離婚したのです」
  麻耶のお母さんはしばらくためらってから恥ずかしそうに話す。
 「失礼な事をお聞きしました、お許しください。それじゃあ、私、これからお宅に伺い
ます、何かお役に立てるかも知れません。お宅の住所を教えてください、すぐに伺い
ます」
 「そんな赤の他人に?」
 「麻耶ちゃんとは会社で三度お会いしていますし、今日のイベントの主催者の1人
として責任もありますし・・・・・・」
  神田の脳裏に一瞬「猫じゃら新鮮組、その日のうちに誘拐される」と言う新聞の見
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第5話 少女誘拐  その1 ★






















           

         

























































































































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