きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
 「それは・・・・・・」
  と神田が言いかけた時、木枯社長が割り込んでくる。
  ちょび髭を生やした黄色いTシャツ姿の老人の出現に記者一同がどよめき、カメラ
は木枯社長をアップにとらえる。
 「私が猫じゃら工房の代表者の木枯です。私がお答えします」
  みんながあっけに取られる。
 「私の両親は昔ここ猫じゃら小路で魚屋をやっておりまして、戦時中の物資不足と
は言え店同士が助け合い、仲良く商売していました。私らの世代にとって猫じゃら小
路は両親の働く場であり、子供の遊び場でした。また青春時代もここで過ごしたので
す。ところがです・・・・・・」
  木枯社長はここでぐっと目をむき息を呑みこむ。
 (木枯社長の両親がここで魚屋をやってた?初耳だ) 神田は驚きを隠せない。
  と同時にこれまでの言動の謎解きが出来たような気がした。木枯社長が再び話し
出す。
 「ところがです。この愛すべき猫じゃら小路は戦後再び発展してきたものの、近年
駅前商店街に押されて閑古鳥が鳴いています。何とかしなければならない、これは
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さっぽろ市民であり、ここで育った私の切なる願いです。そんなわけで私はこの猫
じゃら小路をリフレッシュしたいと言う一心で立ち上がった次第です」
  これではまるで市会議員立候補者の演説である。
 「この新鮮組はいわば猫じゃら小路を愛する勝手連で、お陰様でご覧のように多くの
老若男女がこの趣旨に賛同して手弁当で駆けつけてくれました。これから、この新鮮
組を中心として、小路の清掃、TVゲームチャンピオン大会、仮装大会、自由広場など
を実施しながら猫じゃら小路を活性化して行きたいと考えています。猫じゃら小路は今
後ますます面白くなります。TVを見ている皆さん猫じゃら小路にどんどん足を運んでく
ださいね」 
  とTVカメラに向ってVサインを出し、ニタッと笑いかける。
 「後はこの神田事務局長に聞いてくれ」
  そう言って神田の方を見る。木枯社長は美味しいところだけ取ってさっさと群衆の中
へ消えていく。
  その後、神田は各社の記者に、
 「隊員は年に何回募集するのですか?」
 「先ほど代表が言われた各種イベントの実施日は?」
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 「手弁当と言ってもTシャツなどのお金はかかりますよね、費用は誰が負担するの
ですか?」
  など諸々聞かれ、神田のインタビューは終った。

  マスコミから開放され、神田は早世川沿いの道路を渡り、受付事務局のある仏壇屋
蓮華堂の店の前に戻った。
  見ると、受付を待つ行列は1丁目の真ん中にある信号のない交差点を境に3重に
折り返していた。いつの間にか空港の行列に使う境界テープが張られ、参加者は整然
と並んでいた。参加者は面白半分もあるが、無料のTシャツに釣られて来ているのか
も知れない。
  神田が行列の最後尾へ向う。ジャガービアホールの佐々木支配人が掲げる「ここが
最後尾」と書いたプラカードが見える。
 「ご苦労さん」と佐々木支配人に声をかけようとした時、
 「おじさん、ここよ、私の友達を連れてきたよ」 と子供の声がする。
  見ると、中学生の女の子が5、6人並んでいる。中に三鉢 麻耶がいた。神田は数
日前に三鉢 麻耶の携帯にメールを入れていたのである。
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 「ありがとう。だが、おじさんじゃない、神田だ」
 「それじゃ、何だ神田のおじさん、Tシャッまだ残っている?」
 「大丈夫さ、しっかりゴミ拾いしろよ」
  知らず知らず神田の顔に笑みが浮かぶ。 帰り道、神田はノンポロ大学の学生らしき
集団を見かける。
 (内藤教授、ありがとう) 神田は心の中で合掌する。
  内藤は十勝畜産大学の同級生で今はノンポロ大学の教授である。そのことを思い出
した神田は大学に内藤教授を訪ね、今回のイベントの話をしてきた。内藤教授は「顧問
をしているスイーツ愛好会の学生に話してみる」と言ってくれていたのである。
  午前10時になり、受付を開始すると事務局が用意した「猫じゃら小路 新鮮組」のT
シャッ100枚は瞬く間になくなった。
  受付を済ませた隊員がTシャツを着ていっせいに7丁目へと向う。
  事情を商店街LANで知っている各商店のご主人や店員が店頭に出て隊員を笑顔
で迎える。路行く人が何事かと立ち止まり、新しいTシャツを着た隊員のゴミ拾いを見
つめる。
  かくして猫じゃら工房の最初のイベントは心配された混乱もなくまことにスムーズに
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第4話 新鮮組 誕生  その5 ★★★★★






















           

         



































































































































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