きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
 「神田さん、お客様よ」
  階下から半井嬢の甲高い声が聞こえる。神田は振り返り入口を見る。
 「こんにちわ、三鉢 麻耶です」
  中学校の制服を着た女の子がはにかむように立っていた。
 「ああ、あの時の・・・・・・私は神田です」
  神田が1月半ば中学生の女の子に蕎麦屋「川福」で100円を上げてから5ヶ月、
神田の不在中に訪ねてきてから1ヵ月あまり経っていた。
  今日は2007年6月8日の金曜日、第16回よさこいソーラン祭りが始まって3日目
の事だった。
 「あの時はありがとう。あんまりこちらへ来られなくて・・・・・・遅れましたがこれお礼
です」
  彼女は神田の大好きな生キャラメルを差し出す。
 「いいって、100円ぐらい。かえってこっちの方が恐縮してしまうよ」
  照れくさいと見え、神田の赤ら顔がさらに赤くなる。
 「あの時、私落ち込んでいたから・・・・・・嬉しかったんです」
 「そうか、忘れずにいてくれてありがとう。ところで今何年生?学校は楽しいかい?」
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 「中学3年生です。学校は楽しいんだけど・・・・・・」
  彼女は口ごもる。
 「いいよ、無理に話さなくても、人間誰にでも悩みがあるもんだ」
 「おじさんも?」
 「俺だって人間だもの悩みはあるよ、どうしたら三鉢さんみたいなお嬢さんにこの猫
じゃら小路に来てもらえるか悩んでいるんだ。」
  神田にお嬢さんと呼ばれて彼女の顔が嬉しそうに輝く。
 「かんたんよ、中学生が集まりやすい広場を作るのよ」
 「広場ね」
 「街の中はどこへ行っても私たちが腰掛けてアイスクリームを食べたり、話したりする
空間がないのよ。爺ちゃんやお婆ちゃんだけでなく、私達もちょっと座りたいのよ。最近
はデパートや本屋にも椅子が置いてあるけど、年寄りをさておいて中学生が座るわけ
にもゆかないし・・・・・・」
 (若い者も疲れているんだ)
  神田は電車の中や歩道で地べたに座ったり、階段で腰掛けている中学生の姿が目
に浮かんだ。
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  その時である、入口のドアが開いて半井嬢が入って来たのは・・・・・・
 「コーヒー出前です、代金は300円です」 
  半井嬢が缶コーヒーをどんどんとテーブルの上に置く。
  神田は(探りに来たか?)と思いながらも、
 「よう、半井さんはよく気が利くね」
  神田は300円を彼女に渡す。
 「まいどありぃ」
  半井嬢が大声を上げてさっそうと戻って行く。
 「さあ飲もうよ、そのうちまた三鉢さんのような若い人の意見を聞かせてもらいたい
な。そうだ、おじさん今年の夏休みに猫じゃら小路ゴミ清掃隊を企画しているんだ、カッ
コいいTシャツを着て猫じゃら小路のゴミ拾いをするんだ。その時はぜひ参加して欲し
いな、マスコミも騒いで面白いと思うよ」
 「夏休み?・・・・・・勉強もあるけど、息抜きにいいか?」
  立ったままで缶コーヒーを飲みながら彼女は呟く。
 「8月に入ったら連絡するよ、差し支えがなかったら携帯の電話番号教えてくれない
か?おじさんの仕事以外では電話しないから」
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 「変なおじさんには見えないわ」
  と電話番号を教えてくれる。
 「はっはっは、それは良かった。さっきの半井さんに聞かせてあげたいな」
 「聞いていますよ」
 半井さんがドアの影に立っていた。
 「ごちそう様、また来てもいいですか?」
  三鉢 麻耶が帰るそぶりを見せる。
 「またいらっしゃい、安心出来るお姉さんもいるからね」
 「安心出来るお姉さんか、まだ子供なのに」
  3人は大声を上げて笑った。半井さんは三鉢さんを連れて階段を下りて行く。
  三鉢さんに対する半井さんの見方が変わったのは彼女が「何かわけあり」と感じた
からに違いない。

  7月に入り、世の中は月末の参議院選挙を控え落ち着かない。年金の記録漏れや
政治と金の問題などが明るみに出て、与党が過半数を獲得できるかが焦点となって
いた。
  神田も8月のゴミ清掃イベントに向けてフル回転をしていた。
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第3話 プロジェクトS  その5 ★★★★★






















           

         






































































































































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