きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
 「立川、またやろうな」
  木枯社長は甘辛両方をたっぷり取ってご機嫌である。
 「そうですね、またやりましょう」  立川社長はにこやかに答える。
 (立川理事長は本当に改革できるのか?)
  帰る後姿を見ながら神田はそう思った。

  ほろ酔い加減でどこかへ姿をくらました木枯社長を見送り、神田は猫じゃらサービ
スがある仏壇屋 蓮華堂へ戻った。暇そうな金森支配人の顔が見える。
 「金森支配人、今時間が空いてる?」 入口で神田が声をかける。
 「ご覧の通り、暇ですよ」
  金森支配人はいかにも老舗の古番頭と言う感じで、揉み手をしてやって来る。 金
森支配人は神田より三つ年下、55歳である。頭がバーコードになっている。
  彼はコトニ工業高校電子計算科を卒業し、求人のあった仏壇屋 蓮華堂でシステム
の仕事が出来ると応募し採用された。 しかし、実際には荷物運びなどの下働きが続い
た。それでも文句一つ言うわけでなく黙々と働いた。 彼の温厚で誠実な人柄はこの商
売に向いていたのかもしれない。こうしていつの間にか37年が過ぎ、今では店いちば
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んの大ベテランとなった。 彼は人の嫌がる事は一切言わない。こういう人柄が見込ま
れて5年前支配人になった。立川社長の信頼は厚い。
 「立川社長から『何でも金森支配人に相談しなさい』って言われたよ」
 神田はそう言いながら客用の応接セットにかける。
 「そうですか、猫じゃら小路の事ですね。再生プランは順調に進んでいますか?」
  ニコニコと話しかける金森支配人は立川社長が神田の歓迎昼食会をした事を知っ
ている。
 「プロジェクトSの事かい?」
 「『プロジェクトS』って?」
 「Sは『再生』のSさ」
  神田はひそかにこのテーマをプロジェクトSと名付けていた。
 「プロジェクトSは始まったばかりさ。先ほど立川理事長にも話したんだが、まず手始
めに、この夏にボランティアによるゴミ清掃隊を結成したい、と考えています」
 「ゴミ清掃隊?それはまたどうして?」
 「まだ空きビルや空き商店の前にはゴミがあるからね」
  金森支配人は痛いところをつかれて困った顔をする。
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 「具体的になったら、また相談に乗ってください」
 「分りました、何でもおっしゃってください」
  神田は(今日はここまで)と思い腰を上げようとするが、暇で話し好きな金森支配人
は腰を上げない。
 「神田さん、話しは変わりますが、春北商会鰍フ高木まり子さん知っています?僕
の中学の同級生なんです」
 「知ってるよ、入社してから何故かずっと総務課勤務さ。春北商会鰍フ同期で服飾
専門学校出だから年齢は僕より三つ下だ。そうすると金森さんはあさひかわの西鷹
栖の出身かい?」
 「そうです、米農家の出身です。今年のお正月にあさひかわ市で西鷹栖中学校のク
ラス会をやったら、彼女も出席していましてね、久し振りに話が弾みました。まだ独身
なんですってね」
 「そう、良い娘、良いおばさんか?なんだけど、今まで浮いた話は一度も聞いていな
いね、身体に欠陥があるとは思えないが・・・・・・」
  神田は高木まり子の若い時の顔を思い出していた。高木まり子が会社に入った時
は小柄ながらグラマーで、色が黒くて目がパッチリとしていたから「ダッコちゃん」と呼
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ばれていた。何よりも人当たりが良くみんなに可愛がられていた。
 「それがですね、なんか会社を辞めたいような口ぶりでしたよ」
 「そんな、会社の上にも下にも『まりちゃん』って慕われているのにね」
 「この頃、変な奴が偉くなって、無理難題を言うから会社の雰囲気が悪いそうですよ、
その証拠に働き盛りの40代の男性も中途でやめて行ってるそうですね」
  その傾向は神田の在職中からあった。人事異動があると、数ヵ月後には何故か若い
人がやる気をなくし、辞めていくのである。 転職先も決まらないまま今の会社に絶望し
て辞めて行った若い連中の気持ちを考えると神田は胸が痛んだ。
 「春北商会鰍ヘ私ら中小企業から見るとうらやましい会社ですが・・・・・・」
  定年2年前にその会社を辞めた神田には返答の仕様がない。
 「あのまりちゃんまでがねぇ」 神田の眉が曇る。
 「何か気に障る事を言いましたかね・・・・・・」
  他人の顔色を伺う金森支配人は弁解する。
 「いいや、何でもないよ。また来ます」
  そう言って神田は2階の猫じゃら小路サービスへ戻っていった。

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第3話 プロジェクトS  その4 ★★★★






















           

         




































































































































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