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小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
  神田の退職が公然と知れ渡った頃から、神田に地域販売部の今後の仕事につい
ての相談がだんだんなくなっていった。
  神田はする事もなく、勤務中の会社を抜け出した。

  曇り空の寒風の中、当てもなく歩いているうちに、神田はいつの間にか猫じゃら小
路のはずれ、10丁目に来ていた。
  石山通をはさみ向こう側に東部プリンスホテルが見える。
  右手に小さいビルが竹の子のように並んでいる。喫茶店、焼き鳥屋、歯科医院、薬
局、タイ式マッサージの看板が見える。そのビルの谷間に、2階建ての古くからやって
いると思われる酒屋、男川酒造直営店「白富士」があった。 
  神田はここでくるりと踝を返して猫じゃら小路1丁目に向う。西から東に向って歩く事
になる。
  左手には古い木造モルタル2階建ての井戸米穀店があり、人気のない店頭には
「小鳥用くず米、売り切れ」の貼り紙が見える。(この辺りは官庁とホテルとマンション
だらけだが、いったい誰が小鳥用くず米を買うんだろうか?中央区のマンションはほ
とんどジジババが住んでいると言うが、ジジババがマンションのベランダや屋上で小
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鳥を餌付けしているのだろうか?)  神田はふとそう思った。
  さらに歩いていくと、その先に小さい寿司屋、居酒屋、焼き鳥屋、ジンギスカン屋、
ラーメン屋が立ち並んでいた。右手には最近立てられたと見える貸しビルか駐車場
が並んでいる。駐車場の端はしに残雪が残っている。9丁目に入ると角に小さなホテ
ルがあり、1階では神田の好きな烏龍茶を売っている「楼蘭」があった。
  8丁目に入ると、左手の大きなネオパレスホテルがまず目に入る。神田はなつか
しく、左手と右手を交互に見て行く。右手にビルを建て直したのか、きもの処「しま本」
がある。
  そしてまた左手を見る。いかにも古色蒼然とした「柿本剥製店」があった。
 (ひぇー、まだ剥製屋がやっている、まだお客はいるのか?)
  神田は思わず心の中で叫ぶ。この辺も新しいビルやマンションがあり、空いたとこ
ろは駐車場になっている。

  交差点を見ると正面にトタン板を貼ったようなようなアーケードの入口があり、猫
じゃら小路7丁目と大きく書いてある。
 (ここから一応全天候型になっているんだ。少しは寒さがしのげるか・・・・・・)
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  神田は交差点内の雪解け水を避けながら7丁目にわたる。
  これまでの10丁目から8丁目までは新しいビルと古い建物が渾然と同居しており、
空いている空間は駐車場や空き地であり、殺伐としていた。そのため神田はここ7丁
目から先は何かしら期待出来そうな気がしていた。
  左手の角にいつの間にかビジネスホテルが建ち。右手の角に昔なつかしい「ちょん
月食堂」があった。
 「まだやってる?たいしたものだ」
  神田は昔食べた焼きそばを思い出し、思わずごくりと唾を飲んだ。
 「ちょん月食堂」を見ながら、神田は暗い穴倉に首を突っ込むようにして7丁目のアー
ケードに入っていく。
  一瞬、暗くなって物が見えにくくなる。夕方開店の店が多いと見え、アーケード内は
全体として薄暗い。
  神田の目がようやくこの暗さに慣れてくる。
  右手に棒が交差するあの懐かしいマークの「ヘイワビリヤード」、左手に「風間金銀
店」、その先には電気部品電子部品の店「梅田無線機」があった。
  右手の角の焼き鳥屋の前では地面にダンボールを並べ野菜や果物を売っていた。
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通行人も少なく、売り子が寒そうに手袋をはいた両手をさすっていた。

  6丁目の入口には赤と白の同心円を二つに切って上半分を乗せたような派手な
看板があった。上の看板に続く長い天蓋にはスポットライトが規則正しく並び、小路を
照らしている。
  左角のビルは空き家で1階の入口のガラス戸には「テナント募集」の貼り紙が3枚
も貼ってある。
  右手の大きなビルを見やると、間口の広い「渋谷アニメ学院」があり、「平成19年
生願書受付中」の長いステッカーが垂れ下がっていた。
  そのまま歩いていくと、刺身居酒屋「ロック」,、ロシア料理「コザック」、ゆであげスパ
ゲッティの「チンチロリン村」、お土産屋の「ハルニレ」、「猫じゃら市場」、だんごの「古
倉屋」など、神田にもおなじみの店が並んでいる。
  お土産屋「ハルニレ」の前には木製のベンチが置いてあり、歩き疲れた5人ほどの
若者が所在なげに座っていた。
 (老舗ががんばっているなぁ)
  数々のなつかしい店を見ながら神田は5丁目へと向った。
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第2話 猫じゃら小路  その2 ★★






















           

         



































































































































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