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デジカメ あしたのジョー


 「何で春北商会鰍辞めるの?安定した良い会社なのに、それも定年前に」
  長女の真弓が神田に言う。
  あれから神田家では家族会議が何度も開かれた。妻の美代子は夫の辛さは分っ
ているが、娘達は父親の苦労も知らず、それぞれ勝手な事を言う。
 「他所から見て良い会社と言ってもそれは当てにはならない、中身は分らない、外
には出てない様々な事情があるんだよ。お前達の会社だって今はいいが、先の事
は何時どうなるか分らないないんだよ」
  と神田は娘達を諭す。
 「そんな事今から心配したって、それに私たちはまだ嫁入り前なのよ」
  と次女のさゆりが言う。
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 「誰ももらってくれる当てもないのに」
  と神田がいつものように混ぜっ返す。
 「何て事言うの、自分の娘に向って」
  娘達はぷんぷんである。
  あれやこれやとすったもんだともめた挙句に、
 「俺は自由に生きたいんだ」と言う一言で、神田の言い分が通る事になった。

  渋る家族をようやく説得した神田は、1月末に辞職願いを上司の島谷マネージャー
に提出した。島谷と神田の馬が合っていないと知っている周囲の者は、神田が辞め
るかも知れないと言う噂話を島谷に伝えていない。
 「何だって、この時期に辞めるって?お前、頭が狂ったのか」
  神田の突然の申し出にうろたえた島谷は立ち上がり、みんなの前で大声を発す
る。 みんなはいつもの事とにやにや笑って見ている。
 「ええ、狂っていますよ、あながいつも私にそう言っているじゃありませんか」
 「定年まで後2年だろ、何が問題なんだ」
 「問題だらけさ、だけどもういいや、辞めるんだから」
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 「俺の立場も考えてくれ、社長に何と行ったら良いんだ」

 「社長には『神田は上司の俺とは合わない』とでも言ったら?」
 「俺とお前はいつも合っていないよな、だけどそんな事社長に言えるか」
 「社長には『辞意は前から聞いていた、何度も引き止めたが、本人の意志は堅いよう
です』とでも言えば?」
 「そういう言い方もあるか」
  島田は社長への言い訳まで当人に聞いておいて、今度は嫌味を言ってくる。
 「辞めた後どうすんだよ、家族のみんなが路頭に迷うぞ」
 「そんな事、あんたが心配してくれなくてもいいの」
  ここまで話すと、島谷マネージャーはようやく決心したらしく、社長室へ行くのか部屋
を出て行った
 (上司と部下の意思疎通がないと言えばそれはその通りだが、これはみんなが知っ
ている事実だ。退職2ヶ月前の辞職願いだ、道義的には問題があるかもしれないが、
法的には問題がなかろう)
  そう思い神田は島谷を見送った。

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  それからが大変だった。いつもの事であるが、島谷と神田のやり取りの一部始終
があっと言う間に会社中に伝わった。
 「聞きましたよ、良くぞ言ってくれました、私達も溜飲が下がりました」
 「あいつは上にへらへらしているくせに、下の者ならばんばんいじめるからね」
 「私も辞めたいけれど、まだ子供が片付かなくてさ。あいつがいる限り、すまじきもの
は宮仕えさ」
 「あなたの後任には誰がなりますかね?」
 「辞めた後はどうするの?」
  他の部門はもとより、帯広や北見支店の同僚、後輩からも称賛やら慰めの電話が
かかってくる。また、この時とばかりに神田の話を聞こうと酒のお誘いが来る。しかし、
神田はこれにつきあう気はなかった。一言発する度に尾ひれ端ひれがついて何倍に
も増幅され、自分に逆流してくるからである。
 (このエネルギーを仕事に向けたら、もっともっと会社の業績が伸びるのに・・・・・・)
  と神田は思う。
  突然の退職で、会社にも迷惑をかけており、取引先の挨拶もそこそこにして、送別会への出席も必要最小限に留めた。
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第2話 猫じゃら小路  その1 ★






















           

         



























































































































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