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デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
  一瞬、場は重い空気に包まれる。

 「それで、昨年暮れの高校の同期会で木枯君にあったものだから、ついつい愚痴を
こぼしてしまいました。『何か良い手はないものか?』と、そうすると木枯君が『人肌脱
ぐか』って、おっしゃってくれて・・・・・・私としては藁をも掴む気持ちで半信半疑でお願
いしました、そういう訳です」
 「木枯先輩はすぐ安請け合いするから」
 「安請け合いじゃないぞ、義を見てせざるは何とかって言うだろ」
 「私は小売の専門家じゃないですよ、一介のサラリーマンですから」
 「お前は好奇心旺盛で、何にでも口を出すだろう。広く浅く物事を知っているから役
に立てるよ」
  木枯と神田が言い合いを始める。
 「立川理事長、お言葉ですが、対策のアイデアを出すのは本来猫じゃら小路商店街
振興組合の事務局の仕事じゃないですか?もしくはお金を出せばやってくれる会社が
いくらでもありますよ。それをこんな素人が・・・・・・」
 「そうなんですが、商店も新しいアーケードの管理費用が増加し売上が落ちていま
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すから組合の事務員も最小限の人数しか置けません。これ以上商店の負担を増やす
わけには行かないのです」
 「そうなのさ、だから立川はお前を自分の会社蓮華堂不動産の社員にしてまで再建
策のアイデアを考えたいと言うわけさ、自腹だよ、偉いもんさ」
 「聞けば聞くほど、大事(おおごと)だなぁ、責任重大ですよ。俺なんかの素人の出る
幕じゃないですよ」
 「俺がついているよ」
  木枯先輩が助け舟を出す。
 「あんたなんか口ばっかりさ」
 「お前も知っているとおり、そう捨てたもんじゃないよ」
 「自分の買いかぶりだよ」
  立川理事長は2人の掛け合い漫才を楽しそうに見ている。
 「私がお願いしたいのはそういう大事(おおごと)ではありません。アーケードの改修
のよう本格的な大事業はもちろん専門家にお願いして立案していただきますし、当然
組合の理事会の承認を得て実行していきます。私としては素人あるいは一消費者の
目でこの猫じゃら小路商店街がどのように映っているのか、またそれをどうして欲しい
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のか、そのへんのところを聞いて参考にしていきたい、と考えています」
 「消費者モニターみたいなものですか?」
  神田が立川理事長に質問する。
 「そう考えてくださって結構です。他の方の意見を聞いたり、時々この商店街を歩い
ていただき、気のついた事をお話いただけると良いのですか」
  神田は少し気が楽になってきた。
 「隠密剣士、柳生十兵衛、水戸黄門みたいなものか」
 「木枯君、混ぜっ返さないでください」
  立川理事長は木枯先輩を軽くたしなめてから再び神田の方を見る。
 「木枯君からお聞きになったと思いますが、そう言う事で給料も初任給ていどしかお
支払い出来ません。当社も多角企業とは名ばかりで零細企業ですから・・・・・・あなた
の事情も木枯君から聞いています。 足元を見るわけではありませんが、それで良け
りゃお願いします」とへりくだって話す。
 「分りました、家族に相談して、後日木枯先輩経由でご返事します」
  と神田は答える。
 「私の方は急ぎませんから、いつでも結構です。良い返事をお待ちしています」
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 「そうしよう、立川、後はこの俺に任せてくれ」
 「それじぁ、お願いします」
 「ありがとう、立川」
 「ありがとうございました」
  木枯と神田は立川理事長を見送る。

 「どっかで一杯飲むか?」
  木枯先輩が腰を上げる。
 「私は酒を飲みませんよ、知ってるでしょ?」
 「それでも仕事の時はお茶を飲んでもつきあっていたろう」
 「そりゃ、仕事の時はね。まだ明るいでしょ、今度きちんとしたらつきあうから」
 「そうか」と恨めしそうに木枯先輩は帰り支度を始めた。
  かくして神田の仏壇屋 蓮華堂での長い一日が終った。



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第1話 仏壇屋 蓮華堂  その6 ★★★★★★






















           

         



































































































































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