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デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
の事がない限りチャンスがなかった事は間違いない。
  そういう事もあり、まるで映画の「夕陽のガンマン」に出てくるメキシコのならず者の
ように傍若無人の振る舞いをしていた。
  そのため、部下の三原課長や係長の神田大助は苦労もしたが、曲がった事は嫌
いで、部下の面倒見は良かった。
  木枯先輩は退職後も2、3ヶ月に1度は春北商会鰍フ後輩のところを訪れて、前の
役員、今の役員などの悪口を大声で話していた。これには後輩も周囲も慣れっこに
なっていて、日曜日の古新聞回収車が来たとしか思っていない。
  現在、神田大助は木枯先輩の何代かの後の地域販売部長をしている。60歳の定
年まで後2年あるが、この先の栄進も見込めない。また世の中不景気で再就職の話
もない。神田は早期勧奨退職制度に乗っかり割り増し退職金を貰って辞めようかとも
考えていた。
  木枯先輩は昨年暮れにも神田大助の会社、春北商会鰍ノやって来たばかりであ
る。

 「先輩、何でここにいるんですか?」
005

  神田は木枯先輩に改めてたずねる。木枯先輩は常々「俺はカラオケと囲碁で毎
日忙しいんだ。カラオケの日は妙齢のご婦人とお食事なんぞしちゃってさ」と豪語し
ている。
 「人助けよ、遊んでばかりもおられないのさ」
 「人助け?」
 「実は、この仏壇屋蓮華堂の立川社長は猫じゃら小路商店街振興組合の理事長を
やっているんだ。立川とはさっぽろ南高校、旧制北国大学農林専門部の同期生でね、
未だにぽん友なのさ、その立川に頼まれちゃってさ」
 「何を?」
 「ご承知のように、この長い歴史を誇る猫じゃら小路商店街も年々さびれる一方でさ、
特にさっぽ駅の小丸デパートと周辺のショッピングセンターが出来てから客足は遠の
くばかりでさ。いろいろ手を尽くしても効果がなく、事もあろうにこの俺に『何とかならな
いだろうか、助けてくれよ』と、こういうわけさ」
 「そんなの簡単さ、年寄りは引退して、若い人に任せればいいんだ」
 「そうは行かないらしい、この商店街も後継者が少なく、老齢化する一方さ、それらの
店主を説得するには若い人では難しいらしいよ」
006

 「それでどうするの?」
 「猫じゃら小路商店街復興のために一肌脱ごうってわけさ」
 「そんな汚いしみの出た肌を?」
  と先輩よりはまだ若い神田が混ぜっ返す。
 「70を過ぎても、脂が乗ってつやつやだ、しみひとつないぞ、見せてやろうか」
 「いいよ、そんなじじぃの肌・・・・・・ところで喉が渇かない?」
 「そうか、初めてのお客にコーヒーの出前でも頼むか」
 「いいですねぇ、ついでにフジ屋のケーキでも、ああ、もう販売禁止か」
  酒が一滴も飲めない神田は甘い物が大好きである。
 「ケーキつきコーヒーなんぞ贅沢だよ」
  と木枯先輩に一蹴される。
  そうは言いながらも木枯先輩はにこにこと腰を上げ、入口のガラス戸を開け、階下
に向って大声を上げる。
 「美樹ちやん、コーヒー2つ」
  階下では、暇そうにしていた金森番頭ほか二人の店員が何事かと2階を見上げる。
 「はいっ、かしこまりました」
007

  店の掃除をしている美樹ちゃんが打てば響くように答える。
 「美樹ちゃんて言うのか、あの娘、若いね」
 「半井(なからい)美樹、番茶も出花の18歳、今年4月に下の仏壇屋 蓮華堂に入る
事になっている。今は冬休みで入社前のお手伝いさ」

 「ところで、何でこの私にメールを打ってよこしたんですか。会おうと思えばいつでも
会社で会えるのに・・・・・・」
 「お前の一身上の話だよ、春北商会鰍フ本社なんかで話せるか」
 「一身上の話?」
 「そうよ、お前の骨を拾ってやろうという話さ」
  この時、階段からばたばた音がして入口のドアがばたんと開いた。
 「お待ちどうさん、コーヒー2つです」
 「いやに早いな?」
  見ると半井嬢である。半井嬢はありふれた紺色の制服の両脇のポケットから缶コー
ヒーを熱そうに1缶ずつ取り出してテーブルに置く。
 「えっ」
008
 
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第1話 仏壇屋 蓮華堂  その2 ★★






















           

         



































































































































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