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忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー

    
 「ここじゃないのか?猫じゃらサービスは」
  ここは北国さっぽろ市、猫じゃら小路の1丁目、木造モルタル2階建ての仏壇屋 
蓮華堂の前である。仏壇屋 蓮華堂は猫じゃら小路の東のはずれで、土曜日と言
うのに人影もまばらである。頭上の街頭スピーカーから「千の風にのって」の歌が
聞こえる。
  年の頃なら60歳前くらい、白髪交じりの五分刈り頭、赤ら顔の男がきょろきょろ
周りを見回している。赤いジャンバーを着てお尻のポケットに財布を挿した猫背の
その男はさながらダフ屋風である。男は寒さに身震いしながらジャンパーのポケッ
トから携帯電話を取り出し、メールの内容を確かめる。
 「重大な話あり、2007年1月13日、土曜日、午後2時、猫じゃら小路1丁目、猫
じゃらサービスにて待つ、ご存知より」とある。
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 「住所は合っているなあ」
  店の前でうろうろしているおじさんの姿を見た女店員が何事かと顔を出す。

 「お客様、何かご用ですか?」
  右手にほこり取りのダスキンを持った女の子は子供のような甲高い声でたずね
る。高校生みたいな女の子は言葉遣いもまだマニュアルどおりでたどたどしい。制
服も借り物らしく板についていない。
 「ここじゃないですか、猫じゃらサービスは」
 「猫じゃらサービスでしたら、この店の2階ですよ」
  と、にこにことおじさんを中に招き入れる。
  蓮華堂は仏壇屋らしく大小の仏壇や仏具が所狭しと並んでいる。右手に2階に上
がる階段があり、上り口の壁に「猫じゃらサービス」と書いた小さな紙切れが貼って
ある。その文字は豪放磊落と言って良いほど書いた人の性格を表しており、太い筆
字が紙からはみ出ている。
 「ありがとう、これじゃあ、分んないよ」
  男はぶつぶつ言いながら、2階に上がっていく。
 「社長、お客さんよ」
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  男の後ろからその若い女の子がきんきらきんの声を浴びせる。
 「おじゃまします」
  男が階段を上りきりガラス戸を開けると、倉庫のような大きながらんとした部屋
があった。右側の壁側に大小のダンボールが所狭しと整然と並んでいる。
  残りの空間が事務所となっており、奥には仏壇屋の社長の机がでんと構えてい
た。その手前に会議用の長テーブルが2本平行に並んでいる。社長の机の傍ら
で古い円柱型の石油ストーブがちろちろと燃えていた。
  その社長の机に1人の年寄りが座っており、後の東壁の仏像画を眺めている。そ
の老人が来客の声で椅子を入口の方へ回転する。

 「おっ、神田、来たか」
  紺の着物を着た70代の爺さんが両手を挙げて立ち上がる。みかん色の派手な
帯が一際目立つ。髪は黒々としたオールバックでちょび髭を生やしている。そのい
でたちはどう見ても堅気とは思えない。

 「あれ?木枯先輩、何でここにいるの?」
 「何でって、ここが俺の会社だ。猫じゃらサービスだよ、俺が社長さ・・・・・・とは言っ
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てもまだ俺1人でボランティアだがね」
  そう言いながら木枯先輩は会議用テーブルに寄って来る。
 「まあ、掛けなって、用事があるから来たんだろう」
 「はあ」
  神田と呼ばれた男は頭が混乱していた。

  木枯先輩こと木枯福三は当年70歳で、神田大助が勤めている春北商会鰍フ
ちょうど一回り上、12歳年上の大先輩だった。
  春北商会鰍ヘさっぽろ本社の商事会社で、紙製品、文房具、OA機器、店舗資材
などを取り扱っている。資本金は3億円、年商は300億円強で、北海道の企業とし
ては大きいほうである。 20年前、その木枯先輩はさっぽろ以外の商圏を統括する
地域販売部長をしていた。その時、神田はまだ係長だった。

  旧制北国大学農林専門部を出たという木枯先輩は、戦後の創業時から入社し、
苦労
して今の会社の成長の基礎を築いたらしく自信に満ちていた。しかし、一方で
向こう気が強く、役員を屁とも思わない言動で、いまだ役員にはなっていない。もっ
とも春北一族の会社は役員がほとんど姻戚で占めており、それ以外の者はよほど
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第1話 仏壇屋 蓮華堂  その1 ★






















           

         

























































































































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