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 「古谷先輩、こないだはどうも、今日はコーヒーでも飲みますか?」
  早川が古谷公園部副部長に声をかける。今日は3月30日、定期総会の議案を
審議する理事会が終わって早川が帰ろうとすると目の前に古谷がいた。
 「どうも、コーヒーか?・・・・・・いいよ」
  酒の当てが外れた古谷が照れ笑いを浮かべる。
  2人は上の信号を左に曲がって喫茶店「暇」に向かう。喫茶店に入ると数人の
客がビールを飲んでいた。
 「おい、ビールがあるぞ、ビールにしよう。マスター瓶ビール2本!」
  古谷が勝手に注文する。
 「ところで今日は何の話だい?」  古谷が訊ねる。
 「前回の総務部長の再選挙がどうも腑に落ちなくて、今日、理事会が始まる前
に先田氏が玄関先でタバコを吸っていましたので、思い切って聞いてみました」
 「何と?」
 「みんなあんたを応援していて票を入れたのにがっかりしたよ、坂本総務部長に
金玉を握られているのか?次期総務部長のニンジンをぶら下げられたのか?と
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・・・・・・」
 「君もひどい質問をするねぇ?」  古谷が呆れた顔をする。
 「私は回りくどい言い方は嫌いですから・・・・・・」
 「それで返事は?」
 「彼は例の通りうるんだ目をして笑っているだけ、何も答えませんでした」
 「イエスでもノーでもない、というわけか・・・・・・」
 「みんなご存知のように2人は同じ分会に所属し、総務部の部長と副部長、そし
て同じゴルフ部に所属していっしょにプレイしている・・・・・・だけど、それだけで今
回のような茶番劇をするだろうか?ってね」
  早川は理解できない。
 「こういう事も考えられないかな?上司の坂本氏は副会長にも総務部長にも
なれなかった。保険衛生部から総務部副部長に取り立てられた恩義がある先
田氏は気の毒に思い辞退する決心をし、一計を案ずる。そして坂本総
務部長
に『先田は会社から町内会に専念されるのは困るとの一筆をもらっている』と
発言させ、再選挙に持ち込ませる。先田氏もそうすれば大義名分が立つ。
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先輩の顔を立てたと見なされ、次期総務部長最有力候補として認知される、ま
た坂本総務部長に対しても貸しを作れる、という計算さ・・・・・・」
  古谷が解説する。
 「格好良過ぎるなぁ、町内会が変わって欲しいとの思いで彼に投票した人達が
あんなにいたのに・・・・・・」
  早川はつぶやく。
 「そうだなぁ、新体制は大沢副会長と北村副会長が新たに入閣し、山内経理部
長が格上げになったものの、宮城会長と玉置副会長と坂本総務部長が残ったま
まだ。どう見ても彼らが暴れ馬の坂本総務部長を御せるとは思えない。・・・・・・
今後もすったもんだが続くんだろうね?」
  古谷がそう言う。
 「ところで先輩、次期も続投ですか?」
  と早川が真顔で訊ねる。
 「俺も10年間続けたが疲れたよ。昨年神さんが軽い脳梗塞になったが、これ以
上進行したらいつでも辞める覚悟さ・・・・・・」
 「そうですか?大変ですね」
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 「まあ、今のところは神さんの経過は順調だがね、君はどうする?」
  古谷が逆に聞いてくる。
 「もう辞めたいのですが、代わりがいなくてね」
 「分会長は代わりを見つけるまで辞められないよ。俺は代わりがいなくともいつ
でも辞められるがな、ははは、早く代わりを見つけろや?」
  古谷は愉快そうに笑う。
 「俺はそれまで続けるしかないのか?」
 「ない、どうやら今夜の結論が出たな?そろそろ帰ろうか?」
 「そうしますか?」
  2人が店を出て空を見上げると曇り空である。
 「わが町内会も一瞬晴れたと思ったら実は曇りだったか?」
  早川は思わず呟いていた。



                                              (完)
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第12話 晴れのち曇り  その6 ★★★★★★






















           

         

































































































































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