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  館山選考委員長がそう告げた時、
 「ちょっと待ってください」
  と会長に選出されたばかりの宮城氏が立ち上がる。そして、
 「私はですね、皆様ご存知の通り耳が遠いし、他にも不整脈など体調の悪いとこ
ろがありますので、会長という重責は務まらないと思います」 と話し出した。
  話を終える間もなく、
 「大丈夫だ!」
 「年取ったらみんなあちこち痛いんだ」
 「今更何を言っているんだ、委員長!無視して続行、続行!」
  会場から激励やら叱責が飛び交う。
 「という皆さんの声で、副会長の選出に入ります」
  館山選考委員長は笑みを浮かべながら議事進行の宣言をする。
 「ご覧のように副会長候補のメンバーのうち、宮城氏は会長に選ばれましたし、
体育部長の浜松氏は今期で退任されるとの申し出がありますので、残る玉置
氏、
大沢氏、北村氏、坂本氏の4名の中から3名選んでください」
  館山選考委員長は候補者が変わった事を理事達に確認する。かくして投票が
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行われ、獲得票の多い順に大沢氏、北村氏、玉置氏を選出した。
 (理事会で正論を言っていた北海のヒグマこと大沢分会長が副会長になった、
これは町内会のために良い事だ。また、同じ分会の北村研修部長も副会長に選
ばれて良かった)
  早川はひごろ共感を抱いている仲間の当選をすなおに喜ぶ。

  続いて総務部長の選出に入る。前回2人とも11票だった総務部長の坂本氏と
総務部副部長の先田氏の戦いとなったが、結果は坂本氏が19票、先田氏が29
票となった。圧倒的な票差に場内が一瞬静まり返る。
  先田氏は年齢が坂本氏より一回り若く、長身でスマートなスポーツマンで、物言
いも柔らかく押し付けがましいところは一つもない。黙々と仕事をするタイプで、女
性理事の受けも良く、男性理事からも評判が良かった。
 (やれやれみんなが見る目はいっしょだ)
  と早川が思った時、
 「館山選考委員長、お話があります」  坂本総務部長が手を上げる。
282

 「どうぞ」
  館山選考委員長が怪訝に思いながらも発言を許可する。
 「実は話が遅れましたが、ご承知のように先田氏は現在も会社の仕事をしてい
まして『先田氏が町内会に専任されると会社の業務に支障を来たす』との一筆が
会社より来ています」  坂本総務部長の爆弾宣言に場内は騒然とした。
 「今になって何を言うんだ、そんな事は選挙をする前に選考委員長に行っておく
べきだろう?自分が上位になっていたら言わないつもりだったのか?」
 「やり方が汚い」
 「そんな一筆を書く会社なんてあるのか?どちらを選ぶかは本人の勝手で会社
は口を出さないはずだぞ」
  会場のあちこちからみんなの声が飛び交う。
  館山選考委員長は苦い顔をして考えていた。少し時間をおいてから、
 「それでは再投票します。今度は先田氏を除いて、上位3名である坂本氏と木
谷氏と私館山の中から1名選んで投票してください。得票がいちばん多い人を当
選とします」
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  選考委員長の提案に従い、再投票が始まった。その結果、坂本氏は23票を獲
得し最上位となったものの、有権者48名の半数にも届かない。
 (何だか猫だましに会ったみたいだ、晴れたと思ったら曇りか?)
  早川は釈然としない。

  経理部長については経理副部長である山内氏が85%以上の支持を得て選出
された。
  早川はふと先月2月9日に山内が経理部長候補になった時の様子を思い出し
ていた。
  当日、町内会三役の候補者選びが終わったのは午後9時に近かった。早川が
ブルゾンを身にまとい外に出ると星空であった。昼間は晴れてかろうじて気温もプ
ラス1度となったが夜になると零下になっていた。
  「ああ、寒い」
  早川は思わず襟首を立て最初の交差点へと向かう。前方に肩を落として歩いて
いる山内らしき人影が見える。早川は急ぎ足で追いつき声をかける。
 「山内さん、良かったね」
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第12話 晴れのち曇り  その3 ★★★






















           

         

































































































































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