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イタリアかけある記
いもよらぬ展開に坂本総務部長は不本意ながら塩田女史に回答を求めざるを得
ない。
 「塩田青少年部長、お答えください」
 「はい、子ども神輿についてはスタートから3カ年間は確かに青少年部が担当し
ていました。始めのうちは子ども達も物珍しく面白がって参加してくれましたが、子
ども達の関心がテレビゲームなど他へ移り、学習塾やクラブ活動へ通う子ども達も
増え、年々参加者が減ってきました。
  いろいろ対策を考えましたが妙案はなく、今後どうするか理事会で検討した挙句、
『これも時代の流れだ、やむを得ない』と中止になったはずです。この事はみなさ
んよくご存知のはずです。それを今になってもったいないからとの理由でまた始め
るというのには賛成できません」
   塩田女史は怒りを抑えながらたんたんと話す。
 「そういう経過があって中止したんだったら仕方ないんじゃないの・・・・・・もったい
ないとかそんなんじゃなくてさ・・・・・・」
  黒田分会長は自分自身も納得した様子である。
 「そうだ、そうだ」
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  日頃坂本総務部長の議事の進め方に疑問を抱いている中田分会長も大声を上
げる。 他の理事達もうなづく。
 「そういう事でこの件については再検討させていただきます」
  坂本総務部長は形勢が不利と見て歯切れ悪く締めくくる。

  新年交礼会は宴も佳境に入っていた。
 「かるた取りといい、子ども神輿といい、まったく年寄りの感傷で、ズレた話だ。今
の子ども達はそんな事より面白い物がいっぱいあるというのに・・・・・・」
  早川はそう言いながら紙コップの日本酒をぐっと飲む。
 「本当だよな、何も分かっていない。ズレコローマンだよ」
  久井がそう言い放つ。
 「ズレコローマン?久しく聞かなかった言葉だ」
  早川は笑う。
 「分かる?お前さんも古い人間だ」
  そういう久井はお酒が回ってまるでゆでだこのようである。
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 「私も分かりますよ」
  久井と同世代の杉野分会長が会話に加わる。
 「思い起こせばあれは1964年の東京オリンピック、レスリングのグレコローマン
で市口が戦わずして金メダル、花原がブルガリアに勝って金メダル、日本国中が
熱狂したね。そのグレコローマンをもじってズレコローマンさ」
 「そうでしたね、それ以来どこかピントが外れている人を指してズレコローマンと言
うようになった」
  久井も若かりし頃を思い出している。
 「そういう事なら総務部長は平成22年度ズレコ大賞に値する」
  早川も酒の勢いで頭の回転が上がってくる。
 「ズレコ大賞?ははは、それはいい」
  久井も杉野も大声を上げて笑う。
  その一瞬、早川は、
 (誰かまずい人に人に聞かれたか?)  と周囲を見回す。
  しかし、宴もたけなわである。耳が遠い人達に聞こえた様子は見られない。みん
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な勝手に騒いでいる。
 「それもいいけどズレにみんなが慣れてしまったり感染すると大変だよ。『悪貨は
良貨を駆逐する』って昔から言うからね」
  酒を飲んでいても杉野分会長は冷静である。
 「そう言えば、前に東Bブロックで顔合わせした時、坂本総務部長が酒を飲んでこ
んな事を言っていましたよ。『私は何も難しい事は考えていませんよ、思い立ったら
やる方で、豚も木に登るタイプかな』って・・・・・・」
  早川が2年前の事を思い出して言う。
 「本人はそれでいいかもしれないが、周りは困るよ。みんな巻き込まれるんだから
・・・・・・」
  久井理事が口を尖らす。笑うだけ笑うとみんな正気になってくる。
 「ズレコローマンなんて昔の駄洒落を未だに覚えている事自体、ズレコローマン
の証かもしれないな」
  杉野分会長が最後に呟いた。


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第10話 ズレコローマン  その6 ★★★★★★






















           

         

































































































































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