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  坂本総務部長が理事達を見回す。理事達は何となくおかしいなとは思いながら
も反論する明確な根拠が見出せない。
 「それではそのように決定いたします。当日大勢の理事さんの出席をお待ちして
います」
  坂本総務部長は満足そうに笑みを浮かべている。 
 (何でかるた取りを総務部長がするんだ?ズレている、もっと本来業務をきちん
とやって欲しいものだ)  早川はそう思っていた。

  新年交礼会も時間が経ち、早川と久井のコップの中は2人の好きな日本酒に変
わっていた。
 「坂本総務部長は去年の7月の理事会でも変な提案をしていましたね?」
  早川が一升瓶で久井のコップにお酒を注ぐ。
 「変な提案?」
  コップを差し出した久井の鼻の頭が赤い。
 「町内会の子ども神輿の事さ」
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  早川が口に出す。
 「ああ、あれね」
  久井はようやく思い出したようである。

  昨年の7月8日の理事会の事である。
 「議題はすべて終了しましたが、子ども神輿について提案します」
  理事会は夏祭りの実施計画で議論が百出し、時間は大幅に経過していた。み
んなうんざりして早く帰りたいという様子であった。
 「古い方はご存知でしょうけれど、実はこの東町会館の屋根裏には10年前に作
った町内会の子ども用神輿があります。お金もかかった立派な神輿ですので、この
まま放置しておくのはもったいないので何とか活用できないか?という提案です」
  坂本総務部長はみんなの関心を呼ぶべく、ここで唾を飲み込み間を空ける。
 「町内会所有のお神輿?そんなのあったんだ?」
  高木分会長が小さな声で早川の顔を見る。
 「1年先輩の高木さんが知らなければ私が知るわけありませんよ」
  早川が小声で答える。
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  2人がそんな話をしているうちに黒田分会長が手を上げる。
 「質問」
 「はい、黒田分会長」
 「それで子ども神輿はいつやるの?夏祭りにですか?」
  黒田分会長も1年前に役員になったばかりで、子ども神輿については何も知らな
い。
 「違います、東山神社の例大祭の時にです」  坂本総務部長が答える。
 「誰がどうやってするの?」
  几帳面な性格の黒田分会長はいつものように詳細を質問していく。
 「それはですね、なにしろ子ども神輿ですから青少年部が中心となって進めたら
いいのではないかと考えております」
  と坂本総務部長は当然の話とばかりに答える。
 「ちょっと待ってください」
  今の答弁に青少年部長の塩田女史が手を上げ、話を中断する。
  70歳を超えたと思われる塩田女史は透き通るように色が白く、今でも往年の美
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貌を維持している。ふだんおとなしい塩田女史がきつい顔をして立ち上がる。この
会館で月に1回子育てサロンを開催しているベテラン部長はこの話を何も聞かされ
ていないようである。
 「塩田青少年部長、質問ですか?」
  坂本総務部長は左手の部長席に座っている塩田女史を見やる。総務部員が塩
田女史のところへ駆け寄ってマイクを渡す。
 「この件については7年前理事会で協議して中止になったはずです。青少年部と
しては賛成できません」
  塩田女史はきっぱりと態度を表明する。坂本総務部長は苦い顔をしている。
 「質問」
  2人の様子を見て、黒田分会長がすかさず食いつく。
 「黒田分会長」
  坂本総務部長はまたかという顔をして黒田分会長を指名する。
 「塩田青少年部長に質問です。『7年前子ども神輿は理事会で中止になった』と
言いましたね?詳しく教えてください」
  黒田分会長は坂本総務部長を無視して直接塩田青少年部長を指名する。思
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第10話 ズレコローマン  その5 ★★★★★






















           

         

































































































































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