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  深谷班長は予想していたかのごとく身構える。
 「こないだ話したとおりです」
 「それでは困ります。アパートの除雪は敷地内の話で、排雪は公道の話です。
お宅が入居者から除雪費を取る取らないは大家さんと入居者との関係で、排雪
は入居者と町内会の関係ですから・・・・・・排雪費を集めるというのは班長の仕事
ですよ・・・・・・」
 「それはそうですが・・・・・来年から払います」
 「何とかしていただかないと・・・・・・真面目に払っていただいてる方に悪いと思
いません?」 早川がそこまで言うと、
 「札幌市民の中には町内会費も排雪費も払っていない人はいますよ」
  と深谷班長が開き直る。どうやらアパートのオーナー同士で相談している様子
である。
 「そういうケースもあると思います。しかし、この分会には町内会費はともかく排
雪費を払わない人はおりません。みんなが通る道ですから・・・・・・お宅のアパート
も毎年払っていたでしょう?」
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  この一言で再び言葉に窮した深谷班長はさらに開き直る。
 「なんなら大林会長に言ってもいいですよ。私が説明しますから・・・・・・」
 (そこまで言うか?どうしても自説を通すつもりだ。払うというか集める気がない。
これ以上議論しても始まらない)
 「分かりました。会長に状況はお伝えしておきます」
  早川はそう言って別れる。
  残りの回覧板を配りながら、
 ( どうやら7班の今年の排雪費は諦めなきゃならないか・・・・・・それにしても大
林会長と沢口経理部長には話しておかないと・・・・・・)  と早川は考えていた。

  2月に入り東区のあちこちで排雪が始まった。東4B分会の排雪は今日2月16
日から17日にまたがる予定である。
  16日の天気予報は晴れ、最高予想気温はプラスの4度である。朝の8時から
ブルドーザー、ラッセル、排雪トラックのエンジン音が町内にこだまする。
 「さあて出かけるか?」
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  早川は風邪を引かないよう厚着をして、アノラックの上に東山町内会の文字が
入った黄色いチョッキを着て外へ出る。
 「お早うございます、よろしく」「こちらこそよろしく」
  早川は大手建設会社の子会社の阿部さんと挨拶を交わす。小柄な阿部さんは
地黒なのか、商売柄なのか真っ黒な顔をしてにこにこと答える。
  間もなく阿部さんの合図で排雪が始まる。すでにオレンジ色のアノラックを着た
関係者が要所要所で交通整理をしている。まずは排雪トラックが何度も通る道を
広くする事から始まる。 片側歩道の雪山を削り、待機しているトラックに積み込む。
中小路の片側の排雪を一通り済ませると今度は反対側である。これを何度か繰り
返すが、問題は踏み固められた路面である。氷となった路面は硬くて大型機械で
もおいそれとは削れない。お日様に当ててから何度も削るしかない。
  積み上げられた大きな雪の山で、車はもちろん犬の散歩中の人も迂回を余儀
なくされる。早川は作業の邪魔にならないよう何度も雪山を超えて他の道路の進
捗状況を確かめる。
  暇な爺さん達が自分の家の前に立って、
 (おれんところの雪はきちんと持っていってくれよ)
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  と言わんばかりに監視している。
  早川はこうして朝夕2回排雪作業を見回る。1時間も外にいると身体がすっかり
冷たくなってくる。

  17日の午後6時過ぎ分会内のすべての排雪作業が終わった。冬のこの時間に
なると空気は深々と冷え込んでくる。
  早川が日が暮れて薄暗くなった町内を見回すと、排雪のおかげで狭かった道路
が広くなり、家々との段差もなくなり見違えるようである。
 「道路って本当はこんなに広かったんだ!」
  早川は感激する。早川は排雪費徴収の苦い思い出をすっかり忘れていた。
  (今年の雪虫は早いのか遅いのか?)
  早川は雪虫が飛び交う幻想的な光景をを思い浮かべていた。




 
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第9話 雪虫が飛んで  その6★★★★★★






















           

         
































































































































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