いる。
先に触れたように、札幌市民の高齢化は全国平均より若干低めだが、間違い
なく進展している。平成20(2008)年の高齢化率(人口に占める65歳以上の割
合)は19.1%にも達し、以降高齢化率は年々高まると予測されている。
高齢化率が高まると、自力で雪かき出来ない世帯が増えてくる。そのため70
歳以上である事他一定の条件を備えた高齢化世帯に対して、札幌市では「福祉
除雪サービス」を実施している。雪が降り道路除雪が行われた日に玄関前を通れ
るように地域協力員が除雪するサービスである。雪が降った朝、スコップを抱えて
歩いている人は地域協力員である。
「福祉除雪サービス」は利用者と地域作業員の募集を「さっぽろ広報」で行って
いるが町内会の回覧でも周知徹底している。早川の分会でも利用者は年々増え
ている。
話は排雪費に戻る。排雪費は12月最初に回覧板を回し、翌年の1月末日まで
に徴収する事になっている。
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要領の良い班長は12月給料と冬のボーナスが出た頃に徴収に回り、早々と仕
事を終える。班長が外が寒いからとサボって翌年に回ると大変である。徴収される
家庭は年末年始にお金を使った後だけに機嫌が悪くなる。もたもたしていると排雪
実施の2月が迫ってくる。
(年内に排雪費を徴収して届けてくれるのは何班あるかな?それを受け取れば
町内会の仕事は今年もこれで終わりか?) 早川は12月2日に回覧用「排雪費徴
収のお願い」文書を班長さん宅に届けてほっとしていた。
それから20日経った12月22日の午後7時、玄関チャイムが鳴った。早川はい
つものように晩酌をして夕ご飯を食べ終えたところである。
「おや、こんな時間に誰だろう?」
と思いながら早川は食堂の壁のインターフォンを取る。
「はい」
「深谷です、夜分遅くにすみません、排雪費を持ってきました」
(7班の班長さんだ)
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「ちょっとお待ちください」
早川は玄関の明かりを灯し、手前のガラス戸をあけ、サンダルを履いてドアの
鍵を開ける。黄色いアノラックを着た深谷班長が入ってくる。深谷おばさんは年の
頃なら70歳前くらい、身長は150pそこそこ、小太りでいかにも馬力がありそう
である。自宅の隣にあるアパート・ベルハウスのオーナーでもある。
「ご苦労様です」
と早川はお礼を言い、深谷班長が持ってきた排雪費内訳表を見る。
「あれ?これは一戸建ての分だけ?アパートの分は?」
深谷さんの班は例年一戸建てが11軒分、アパートの共同住宅分が5軒分あ
るはずである。
「うちのアパートは今年排雪費を払えないの」
と深谷班長が言いよどむ。
「どうして?いつももらっているよ?」
早川が怪訝に思う。
アパートの住民は仮住まい感覚で住民意識が低いのか、排雪費が一戸建ての
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半分の1,500円だが、それでもおいそれとは払ってくれない。班長さん泣かせで
ある。
しかし、今年の班長にはオーナーである深谷さんがなったのだから、例年より
集めやすいはずである。
「それは分かっています。しかし、事情があって・・・・・・」
深谷さんはいつもと違って恐い顔をしている。
「事情って?」
「ベルハウスの除雪はいつもお父さんが自分の機械でやっていたんだけど、最近
身体を壊して他人に頼まなければならなくなったの・・・・・・」
(だから?)
早川には排雪費とこの話がどうしてもつながらない、そう思いながらも我慢して
聞いていた。
「除雪を業者に頼むとお金がかかるもんだから、入居者から一冬2,500円取ろ
うと思って・・・・・・アパートを管理してもらっている不動産屋に除雪費の徴収をお
願いしたらそれは出来ないって・・・・・・」
町内会役員の中にはアパートを経営している人もけっこういるが、入居者とのト
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