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 「やあ、もう排雪費徴収の季節か?早いもんだね」
  隣で今日の議題を見ていた高木分会長がつぶやく。
  今日は平成22年(2010)年11月10日、東山町内会館大ホールで第8回理
事会が始まろうとしていた。
 「ほんと、先月赤い羽根を終えたばかりなのに・・・・・・」
  早川が相槌を打つ。町内会の役員になって2年目を迎えた早川は、季節により
変わっていく町内会活動のサイクルがようやく身につき始めていた。
 「それにしても今年の初雪は早かったね、2週間くらい前だったかい?」
  高木が訊ねる。
 「そう、10月26日さ、気象台によれば昨年より6日も早かったそうだよ」
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  その日は火曜日で、近くの病院へ血圧の薬をもらいに行った早川は良く覚えて
いた。
 「そういえば、あの頃雪虫が異常に発生していたよ。」
  高木が2週間前を思い出す。
 「そうだったね」  早川もその光景を思い出していた。
 「どうしてこの時季だけ雪虫が飛び交うんだろうね?他の時季には見たことがな
いよね、ふだん何処にいるんだろう?」
  と高木は予期せぬ質問をする。
 「そう言われても私は文系で虫には弱くて・・・・・・」
  早川が返答に窮する。
 「そうかい、早川さんでも知らない事があるんだ」
 「皮肉を言わないでくださいよ」
  早川は高木の顔を見る。
 「ところで、雪虫が出てから何日後に雪が降るんだろう?」
  高木が話を続ける。
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 「また難しい質問をする。決まっていないんじゃないの?早く降る事もあれば遅く
降る事もあるみたいだし・・・・・・」
 「そうか、虫の事は分からないか?」 高木がにんまり笑う。

  北海道では冬に向かって気温が下がってくると、白い綿のついた雪虫がいつの
まにか現れ、朝夕軒下などで渦を巻いて飛び交う。
  それはまことに妖精が飛んでいるような幻想的な風景で、北国の晩秋の風物詩
とも言われている。
  雪虫(ユキムシ)はタマワタムシ科に属するアブラムシの一種で、6月から10
月までトドマツに住み、根の汁を吸って生活している。そこで幾世代も生まれ変
わっているが、最後の世代が「雪虫」となって、ヤチダモの木に移動する。雪虫と
呼ばれるのはこの時だけで、ユキムシはヤチダモの木で産卵孵化し、ふたたびト
ドマツに移動する。そういうサイクルを繰り返している。
                         (北海道PucchiNet 雪虫(ユキムシ))

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  雪虫が発生してから果たして何日後に初雪が降るのか?これについては興味
深い調査がある。2人の会話があった翌年2012年の1月12日に発表されたも
のである。東京都株式会社ウェザーニュースによると、道内8都市で2007年か
ら2011年の5年間の平均の日数は21日後で、最短の旭川市が11日後、最長
の釧路と根室市が27日後となっている。ちなみに札幌市は18日後となってい
る。         

 「はい、それでは時間が来ましたので理事会を始めます」
  と坂本総務部長の一言で理事会が始まる。
  しかし、早川のチャンネルは変わらない。まだ雪虫の事を考えていた。早川の頭
の中にいつしかキム・ヨンジャの歌「北の雪虫」の一節が流れる。
 「北へ北へと あの人を追いかけて いつかはぐれた 煉瓦の都 わたし雪虫 ひ
とりぼっちよ 探してあなた (作詞:池田充男/作曲:徳久宏司)」
 (ロマンチックでいい歌だよなぁ)
  早川がそう思っていると、
 「それでは毎年恒例の排雪費の話です。沢口経理部長、説明願います」
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第9話 雪虫が飛んで  その1 ★






















           

         
























































































































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