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デジカメ千夜一夜

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おじさんの料理日記 

小説「猫踏んじゃった」



喜劇「猫じゃら行進曲」

小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー


イタリアかけある記
  と2階からハワイアン軍団がどんどんと降りて来た。2人はあわててよける。
 「ひゃあ、交通事故に会うところだった」
  と2人は笑う。
 「ところでもう一つ気になる事があるんだ」
  早川が高木の顔を見る。
 「なんだい?」  高木が訊ねる。   
 「この間の夏祭りの打ち上げ式で、大沢分会長が言っていたんだが、『元気な年
寄りは町内会のありとあらゆる行事に参加しているよね。ブロック別新年会、夏の
日帰り研修旅行、敬老会など・・・・・・さらに町内会が助成しているサークル、ゲー
トボール・ハワイアンダンス・太極拳などなどにも参加している。どうも公平でない
ような気がする』って・・・・・・」
 「老化防止に良い事じゃないの?」
  高木は何が問題なのか、という顔をする。
 「そうすると、変な言い方になるが、元気な年寄りは敬老会一つ出席しただけで
町内会会費の元が取れるという勘定になる。一方、元気がないか入院したりして
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これらの行事やサークルに参加出来ない人は何の恩典もない」
 「なるほど?そういう見方も出来るか?」
 「彼いわく『これが町内会が言う公正と公平だろうか?』ってね。・・・・・・果たして
これでいいのだろうか?と考えちゃうよね?」
 「そう言われるとね」  2人の会話はこれ以上進まない。

  会場ではビールやお酒が振舞われ、話が弾み、一段と賑やかな様子を呈してい
た。みんないかにも楽しそうである。そのうちハワイアンダンスが始まり、爺さん達
はまるで若々しいフラガールを見ているように鼻の下を伸ばす。
  余興はさらに日本舞踊・歌謡ショーと続いていく。拍手も一段と大きくなり、お酒
のせいでだんだん青白い顔も赤味を注してくる。年に一度の町内会の大盤振る舞
いに興奮し、すっかり酔いしれている様子である。
  そのうち、よろよろになった爺さんが会場から出てくる。
 「お帰りか?」
  早川が心配して駆けつける。それは一番先に会場にやって来た爺さんだった。
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 「やあ、楽しくてすっかり酔っ払ってしまった、お世話になりました」
 「どういたしまして、楽しんでいただいて何よりです」
 と言いながら早川が玄関で爺さんに靴をはかせ、
 「ひとりで帰れますか?」
  と聞くと、
 「何を言っている?俺はまだまだ大丈夫さ」
  と答える。爺さんは左手に散らし寿司の折をぶら下げ、右手で器用にバランス
を取りながらのたりのたりと帰って行く。
  早川が廊下に戻ると、老人達は玄関が混む前にと思ってか、ぼちぼちと帰り始
める。そして5分もしないうちに狭い廊下が帰る年寄り達で一杯になる。早川と高
木は道を開け階段の前まで引き下がる。  
  転ばぬように腰を曲げ、押し合いへし合い玄関口に向かう老人の中に、1人だ
け背筋を伸ばし凛として帰る婆さんがいた。宝塚歌劇団のOGのように華やかで
服装も化粧も抜きん出ていた。ただ少し酔っているらしくほほも赤く目がとろんとし
ている。
 (へえー、これで69歳か?酔って気持ち良さそう)
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  早川がそう思った時、彼女の目が早川の目とばったり合った。
  彼女はそのとたん、
 「何見てんだ、じろじろ見ているとしばき上げるぞ」
  と早川に罵声を浴びせ、にらみつける。
 (しらけた爺が酔っ払った自分を見ている?彼女はふと我に返ったのか?)
  早川には分からなかった。

 (欠席者も、出席者も、主催者もある意味でみんな恍惚の人に近づいている)
  早川の脳裏に突然青江三奈の「恍惚のブルース」が流れる。

 「〰 あとはおぼろ あとはおぼろ
     ああ 今宵また しのびよる
     恍惚のブルースよ         (作詞:川内康範 作曲:浜口庫之助)」


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第8話 恍惚のブルース  その6★★★★★★






















           

         































































































































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