敬老会は夏祭りと並んで東山町内会の２大イベントの一つである。両方とも役員
全員参加の催事ではあるが、担当部署は夏祭りが総務部、敬老会が福祉部となっ
ている。
福祉部長はこれまで長い間玉置副会長が兼務しており、昨年その功労が認め
られ札幌市民社会福祉功労賞を授与された。
玉置女史にはこういう実績がありながら、どこでどう決まったのか、今年の４月
玉置福祉部長が解任され、福祉部は滝川部長の専任となった。
新しく福祉部長になった滝川は、三役、総務部長、経理部長についで重職につ
いたと言わんばかりの態度で胸を張り、政治家のようにしわがれ声で自分の意見
をとうとうと述べた。
班長や分会長を経験していない滝川は町内会の仕組みや仕事の流れが分か
らず、自分１人で考えた企画を押し通そうとしていた。みんなの話をよく聞く玉置女
史とは正反対の仕事の進め方だったため、他の役員の反発を買っていた。
その一つが敬老会であった。
先月と今月の理事会で方法論について議論されたが、毎年実施している催事
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であり滝川部長といえども原則を変える事は出来ない。
東山町内会では、敬老会の対象者を当初７０歳以上と設定していたが、高齢化
が進み年々対象者が増え続けるため、毎年１歳ずつ繰り上げ、今年は７６歳以上、
昭和９年９月以前に生まれた人となっている。
８月末までに取りまとめた今年の対象者は７９１名で、出席者は１３７名、欠席
者は６５４名となっている。しかし、この対象者数はあくまでも自己申告によるもの
で、敬老会に関心を持たない老人は申告しないケースもある。実際の対象者はも
っと多いと思われるが、本当の数字は児童民生委員しか分からない。
敬老会の出席者には余興つきの祝宴が設けられ、欠席者にはタオル１本と長
い事相場が決まっていた。
９月８日の理事会で役割分担など詳細が滝川福祉部長から提案された。
提案後の最初の質問は、欠席者へ配るタオルについてであった。
「前回の理事会でも意見を述べたが、欠席者に対する記念品はやはりタオルな
のですか？今時にタオルを届けに行ってもあまり感謝されていないのに・・・・・・」
分会長になって年数の浅い黒田分会長が質問する。周りの理事達も同様の疑
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問を感じているとみえいっせいに私語が始まる。
「えーっ、そういう話もありましたが、福祉部では敬老会まであまり日数がないの
で、例年通りタオルを発注しております」
滝川部長が答える。滝川部長はいつも原案の提示が遅く、疑義が出ると時間が
ないと自分の考えを押し通す。
「そうかなぁ？出席者には何千円もかけ、欠席者には何百円だよ、一度きちんと
考えてみたら？」 黒田分会長は提案する。
「今年は時間の関係もあり、昨年どおりタオルでいいですね？」
坂本総務部長が話を打ち切る。
「もう一つ質問」
黒田分会長が再び手を上げる。
「黒田分会長」
坂本総務部長が名指しする。
「いくら分会長が出席者の顔を知らないからといって、児童民生委員に受付の手
伝いをさせるのはおかしいんじゃない？児童民生委員はむしろゲストとして呼ぶ
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べきでしょう？」
黒田分会長が発言する。
「そうだ、そうだ」
日ごろの滝川部長のやり方に反発している中田交通部長が大声を上げる。する
と中田部長の意見に賛同した大勢の理事達から拍手が湧き上がる。
「滝川部長」 坂本総務部長が滝川に結論を迫る。
「そうですか？私はそうは思いませんがやむを得ません・・・・・・それでは役割分
担から外します」
滝川部長はしぶしぶ了承し、不機嫌な顔をして座る。
他の理事が滝川部長の提案に反対するのには理由がある。４月に就任以来、
これまで強引に福祉部の仕事をしてきたからである。その一例が「高齢者見回り
活動」であった。
７月の理事会の各部報告で滝川が資料なしで口頭で「高齢者見回り活動」提
案する。
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