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  などなど意見が続出する。
  長年神社の寄付金集めをしている古い分会長は当然の事としほとんど発言し
ないが、経験の浅い分会長は日ごろ疑問に思っている事を次々と述べる。
  町内会執行部の要請で、実際に寄付金集めを担当している分会長のガス抜
きにやってきた神社の総代と社務局は、予想以上の反論に驚き、答弁も歯切
れが悪い。彼らの暖簾に腕押しの答弁に腹を立て、声を荒げて神社側を問い詰
める一幕もあった。
 (東山神社の総代も社務局も老齢化して、組織としての体をなしていない。こん
な人が相手なら神社の寄付金集めはまっぴらだ)
  早川はこれらのやり取りを聞いてそう思った。
  幸い、この年の東山神社の寄付金集めは早川が白内障の手術をしたためタッ
チする事なく終わった。そのため、東4A分会の寄付金集めは同じ分会の理事、
研修部長の北村女史とライザ・ミネリこと加藤理事が2人1組で各家庭を回ること
になり、早川の自宅にやってきたのであった。

  早川が東町地区の東山に移り住んだのは30数年前のことであった。
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  妻の景子の母親と同居することを条件に、妻の母親が留萌の自宅を売り払い、
売り出し中の分譲地を買い家を建てたのであった。
  1968(昭和43)年はいざなぎ景気が続き、日本の国民総生産もアメリカにつ
いで世界第2位となり、スーパーの売り上げがデパートを追い抜いた。そんな景
気を反映し、札幌をはじめ近郊では宅地の分譲が相ついだ。
  間岩川流域のこの東町地区もその例にもれず、札幌小樽間の国道5号線に近
い農地から小規模な宅地造成が進んで行った。間岩川流域の農地は石ころだら
けで地盤は固く、水はけも良く住宅地には最適だった。
  住宅地に適している土地は逆に農地としては適さない。ここに入植した農家は
雑木を切り倒し、大きな石ころを掘り出し、農地にすべくたいへんな努力をしたが、
表土は少なく、水田はもちろん畑地にもならなかった。
  止む無くリンゴを栽培したが、1戸あたりの農地は小さく、一家が生計を立てる
には十分ではなかった。貧乏な農家が多く、このため、「東町地区の農家には嫁
に出すな」という言い伝えが広まったくらいである。
  長年貧乏に苦しんだ農家は農業を諦め、農地を担保に農協から資金を借り、三
角屋根の小さなブロック住宅を建てて貸家業に転身した。
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  その後、宅地需要が増加し、不動産屋に農地を売る農家も出てきた。中には隣
接する農家同士で農地を提供し合い共同で大掛かりに宅地を造成し、分譲する農
家も出てきた。  堅実な農家は土地代金でアパートやマンションを建て、将来にわ
たって家賃収入で生計を立てられるようにしていた。
  しかしながら、世間を知らない農家もいて、新しい土地開発分譲会社の役員に
祭り上げられ、その会社に土地代金を出資した人もいる。分譲が完売する頃には
売上代金を持ち逃げされ、路頭に迷う農家もあった。入植以来先祖が苦労して開
墾したなけなしの土地もその代金も失ったのである。

  そんな経過があり元農家のほとんどが貸家業か貸地業に転身した。元々の農
地が小さいため小さな地主が数多く誕生したわけである。現在も農家を続けて
いるのは数えるほどしかいない。
  そんな歴史があり現在の東町地区がある。当然ながら近年他所から入って来
た住人の数が元農家の数を圧倒的に上回っている。
  東町地区に入植して苦労を重ねてきた元農家は地元の東山神社に特別な思
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いがある。ご先祖様の魂がそこにあり、心のよりどころであったに違いない。お正
月には参拝し、例大祭には山車に乗って、縁日で駄菓子を買った思い出があり、
お祭りに寄付をしたり寄付集めに参加するのは当然の事としている。
  他所から入ってきた住人は当然ながら東町地区に対する郷土愛がない。持ち
家がなくアパートやマンションに住んでいる住人にとってはなおさらである。よそ者
にとって現在住んでいる東山地区は仮の土地でしかない。故郷は別な地にある
のである。

  早川は神社といえば、留萌の先の故郷苫前の苫前神社でしかない。苫前神社
は海沿いの道道の脇の小高い丘にあった。  子供の頃、大晦日には決まって苫
前神社に参拝した。真っ暗い中、子供同士が日本海から吹き寄せる吹雪を突い
て神社に歩いて行った事を昨日の事のように思い出す。
  漁師町とてあまり高くもない場所にある神社の階段を上ると、小さな社があり、
10数人の村人がいた。周りの夜気は冷たくて男はタコ帽子をかぶり、女はマフラ
ーで頭から巻いていた。早川は賽銭箱に1円玉を投げ入れ、子供の手に余る太
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第7話 知ってか知らずか  その3 ★★★






















           

         
































































































































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