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 「冗談はさておいて、日ごろ眼が見えにくい方は早く検査して、白内障になってい
る方は頭や身体が動くうちに早めに手術した方が良いですよ」
 「手術はたいへんでないの?」
  病院が恐そうな黒田分会長が訊ねる。
 「手術は片目たったの20分間で痛くありません、人工レンズも30年間以上は持
つと言いますから・・・・・・手術したらそれまで見えなかった物もよく見えるし、気持ち
まで明るくなりますよ」
  そう言いながら早川は自分の席に戻る。隣にはすでに高木分会長が座ってい
た。
 「今晩わ、この間はどうも」  早川が声をかける。
 「どうも。あら、新しい眼鏡を作ったんだ?これですべて完了だね」
 「うん、この後運転免許を更新したらね」
 「そうか、免許更新が出来なくて白内障が分かったんだものね。免許更新に感謝
しなくちゃ?」
 「そうですね、ところでパソコンの問題は解決しました?」
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 「あっ、パソコン?」
  高木は早川にパソコンの相談をした事を忘れていた。
 「あれね、息子に一言言われるのを承知で相談してみたんだ」
 「そう」
 「そうしたら、案の定息子が『年金を残さないで新しいパソコンを買え』と言うんだ。
そう言っても俺が買わないと踏んでいて、『余計なソフトを入れ過ぎたんだったら、
リカバリディスクを使って再セットアップして、パソコンを買った時の状態に戻して見
たら?そうしたら回復するかもしれないよ』と言うのさ・・・・・・『リカバリディスク?』
と聞くと、『新しいパソコンを買うと何か事があった時に機械を元の状態に戻せるよ
う再セットアップするCDがついているのさ、自分で買ってないから知らないようだ
が、机の中を探すと入っているよ』と言うんだ。そこまで言うならやってくれれば良
いのにやってくれないのさ。仕方がないから息子の置いていった本やらディスカバ
リディスクやらを探し出して、独りでやってみたさ・・・・・・そうしたら見事に立ち直っ
たのさ」
  高木の顔はしてやったりという表情である。
 「大事なデータはバックアップしました?」
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 「俺のパソコンには大事なデータなんてないもん・・・・・・」
 「そうですか」
 「うん」
  その後高木は何を思いついたのか、少し間をおいてから再び口を開く。
 「ところで女房もリカバリ出来たらよいのにね?」
  高木が真面目な顔をして言う。早川は高木を常々朴訥で融通の利かない善良
な人と見ていたので、予想もつかない一面を見てあっけに取られた。しかし、人間
は多面的である、一面だけ見ていては理解できない。早川はそう思い直し、相応
のお返しをする事にした。
 「奥さんも同じ事を考えているかも知れませんよ」
 「?」
  高木は一瞬とまどう。しばらくして早川の言葉を理解したらしく、
 「そういう事もありうるか?あはは」  と笑い出す。
  間もなく理事会が始まろうとしていた。周りの理事達が五月蝿い、という顔をして
2人を睨みつける。2人は下を向いて笑いをこらえ続けた。
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  理事会の開催中、早川は人間のリカバリについて考えていた。
  最近では人間の臓器のほとんどが他人からの移植や人工臓器で機能を回復出
来るようになってきた。
  眼は緑内障は治せないが、白内障は人工水晶体との交換で治せる。軽い近視
や遠視は水晶体に度数を入れて治せるし、そこまでしなくともコンタクトレンズや眼
鏡をかければ視力を回復できる。
  難聴は手術で治せない。補聴器は値段が張るが性能が年々向上している。寿
命が短いのが欠点と言えば言える。
  歯の治療の技術と義歯は年々進歩しており、顎の骨に人工歯を直接埋め込む
デンタルインプラントという方法も普及してきている。
  ふと我に戻ると、理事会は相変わらず焦点の定まらない議論を繰り返していた。
 (理事会のやり方もリカバリしなきゃ・・・・・・しかし元に戻す良い方法があるのだ
ろうか?また戻るべき原点が果たしてあるのだろうか?)
  早川は迷路に入っていた。


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第6話 リカバリディスク  その6 ★★★★★★






















           

         
































































































































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