きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴 

おじさんの料理日記 

小説「猫踏んじゃった」



喜劇「猫じゃら行進曲」

小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー


イタリアかけある記
 (祭りもあれだけの規模になると経費もずいぶんかかるもんだ)
  早川は初めて参加した夏祭りの収支を見て驚いていた。
 (そうだ、高木分会長に電話しなきゃ)
  あわてて電話をかける。
 「高木さん?早川です。先ほどは理事会の資料をわざわざ持って来ていただいて
ありがとうございます」
 「いいえどういたしまして」
 「お蔭様で手術も昨日で無事終わりまして・・・・・・」
 「どうだい、よく見えるかい?」
 「今度は皆さんの顔がばっちり見えますよ」
 「困ったねぇ、俺の白髪や皺の果てまで見えたら?」
 「本当、自分の顔を鏡で見てびっくりさ・・・・・・自分の顔がしみそばかすでこんな
に汚いとは思いませんでしたよ」
 「人間見えすぎるのも困るもんだな?」
 「そうですよねぇ・・・・・・今日はありがとうございました」
  そう言って電話を切ろうとすると、
137

 「実はね、今日は早川さんに教えてもらいたい事があって寄ったんだが・・・・・・」
  高木は話を続ける。
 「それは失礼しました、何ですか?」
 「実はね、俺のパソコンは息子から譲り受けて何年も経つんだが、麻雀ゲームや
ら囲碁のソフトやらいろんなソフトを追加しているうちに最近フリーズが多くなってさ、
しょっちゅう止まるんだ。なんかいい方法はないかね?」
  町内会の理事会で早川の隣に座っている高木は会議の最中にもワードやエク
セルの使い方について質問してくる。
 「うーむ、私はパソコンで普段やっているのは文書の作成や写真の処理ぐらいで、
パソコンのハードやソフトについては詳しいことはよく分からないのです。申し訳あ
りませんが息子さんに聞かれたらどうです?」 早川には答えられない相談であった。
 「そうなんだけど、息子に『頭が固いから無理だ』とか、『金をけちらないで最新の
機械を買え』と言われるのが関の山でさ・・・・・・すいませんね、無理な相談を持ち
かけて」
 「お役に立てず申し訳ない」
138

 「いいよ、気にしないで・・・・・・来月の理事会から出席するんでしょう?」
 「はい、その時はご尊顔をあらためてばっちり拝見させていただきます」
 「何言ってるんだ、わざわざ電話をくれてありがとう」
 「いいえ」  早川は電話を切ったものの、長年パソコンを使っているのにかんた
んな質問に答えられない自分が情けなかった。

  それからほぼ1カ月後の10月5日、早川は八木眼科で水晶体が安定したかど
うかの検診を受け、大丈夫との診断により、翌日眼鏡の処方箋を作ってもらった。
  新しく挿入した水晶体には、日常生活に支障がないようあらかじめ60cmから
1mに焦点が合うよう度数が入っている。しかし、早川の場合は免許更新が控え
ており、遠くの信号が見えるよう眼鏡を作り直す必要があった。
  手術後から1ヵ月間、運転免許は停止しており、何かと不便な日々が続いてい
ただけに一日も早く免許更新の手続きを取りたかった。
  2日後の8日、不二メガネでとりあえず1個だけ眼鏡を作ってもらう。良ければ旅
行用の予備にもう1個作っておく予定である。しかし、これで終りではない。この眼
139

鏡をかけて2週間過ごして様子を見て、間違いがないかどうか再度検診し、診断書
を書いてもらわなければならない。
  運転免許の申請には、免許停止の理由となった白内障の診断結果と手術後の
検診結果を添えて提出しなければならないのである。
  早川の気持ちははやるが仕方がなかった。

  10月14日、早川は新しい眼鏡をかけて1ヵ月ぶりに町内会の理事会に出席
する。会議が始まる30分前に到着し、この1ヶ月の間に実施された諸行事の関
係者に頭を下げて歩く。
 「よく見えるようになったかい?」
  頭を下げるたびにみんなから声をかけられる。
 「別世界へ来たようなものさ、何でもしっかり見えるよ。今まで気付かなかった神
さんの皺までばっちり見えるさ」
  みんなが笑う。
  「それが嫌な人は手術をしない方が良いですよ」
  との坂本総務部長の話にまたまた笑いが渦巻く。
140
 
タイトルイメージ   タイトルイメージ 本文へジャンプ



第6話 リカバリディスク  その5 ★★★★★






















           

         

































































































































前のページへ 次のページへ


トップページへ戻る