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 (たかが、眼の手術なのにこれじゃあ大げさすぎないか?)
  早川はだんだん不安になってくるが今さら帰るわけにはいかない。諦めて寝てい
ると静かな部屋で聞こえてくるのは換気の音と自分の心臓の音だけである。
  すると、
 「○○さん、どうぞこちらへ」
  看護士さんが入ってきて、先に待機していた患者を連れて行く。
  それからどのくらい時間が経ったろうか?ベットの中が暖かくなった頃、看護士が
先の手術後の患者を連れて帰ってくる。「しばらく横になって休んでいてください」と
伝えてから
 「早川さん、よろしいですか?手術室へ行きますよ」と告げる。
  20坪ほどの広さの手術室は天井の大きな円形の電灯で白内障の早川にもそこ
そこ明るく見える。テレビや映画の手術室でよく見る電灯の傘は大きく水色で、その
中で3個の白色の電灯が光っている。
  真ん中にロッキングチェアのような手術台があり、周りに血圧計、心電図などの
医療機器があり、デジタル数字や信号が点滅している。
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  早川は何例目の手術なのか、八木先生と2人の看護士が待機していた。3人と
も水色の手術着を着て、白いキャップをかぶり、顔がかくれるような大きな白いマ
スクをしていた。
 「早川さん、こちらにお掛けください」
  看護士が早川を肘掛けのついた手術台を示す。早川が座ると介護ベッドのよ
うに身体がやや斜めになる。早川が左上を見ると大きなアームがあり、いろいろ
な管がぶら下がっている。
 (椅子に腰掛けたまま手術するんだ)
 「少し冷たいですよ」
  早川の右腕と右足首に冷たいゼリーが塗られ、心拍を測る端末がつながれる。
それから手術をする右目の場所だけが丸く切り抜かれた水色の合羽を身体全体
に被せられ、合羽が動かないようあちこちテープで固定する。
 「点眼します」  看護士が右眼に目薬を数滴注す。
  この間、八木先生は医療機器の画面をしばらく見てから、納得したかのように首
を縦に振り、いつものような冷静な声で、
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 「早川さん、それでは始めますよ」
  と早川に声を掛ける。
 「はい」
  と答え、早川も下から左目で先生の顔を覗くが、月光仮面のような格好をしてい
て表情は見えない。
 「下を見てください、そう、そのままで」
  先生は左手で早川のまぶたを大きく開いて押さえ、右手でメスを入れる。
 (ちくっともしない)  早川は麻酔が効いているのが分かる。
 「水で洗いますよ」
 先生はアームの先のノズルを取り、3mm幅の隙間から洗浄水を流し込む。水晶
体の破片と思われる濁ったかけらが水に押し流され次から次へと視界から消えて
行く。
 (水晶体ってこんなに柔らかいのか?ういろうのような物か?)
 そう思っているうちに代わりの人工水晶体が埋め込まれ、消毒や化膿止めの目
薬をかけられ。最後に分厚い眼帯をかけられ、何にも見えなくなった。
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 (早い、もう終わったのか?)
  早川は手術室に入るまでの不安を他所に八木先生の手馴れたマジシャンのよ
うな手つきに感心していた。
  痛みはまったくないとは言え、手術の最初から最後までしっかり眼を開いて見
ていただけに、緊張しっ放しで神経が疲れていた。
 (終わった、早く帰りたい)
  と思ったが、再び手術室の隣の控え室へ連れて行かれた、
 「ベッドでしばらくお休みください」
  そう言いながら看護士が出て行く。手術後に患者の体調に変化がないか、様子
を見るためであろう。
 (こんな事ならもっと早くに眼科にかかり、白内障の手術をすべきだった。人工水
晶体は30年間は持つと言うから、早ければ早いほど手術も楽だ・・・・・・子供の時、
年寄りは夜になると眼が見えないと言っていたが、鳥目でなくてみんな白内障に
なっていたんだな。自分もふくめ気がつかない人もまだいっぱいいるかもしれない)
  早川はそんな事を考えながらうとうとしていた。

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第6話 リカバリディスク  その3 ★★★






















           

         




























































































































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