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 「あなた?聞いていますか?」
  突然、白内障の手術の説明をしている看護士が早川の方を見る。
  8月30日、月曜日の午後3時半、9月2日に八木眼科で白内障の手術をする
予定の患者が狭い会議室に集められていた。総勢8名だが早川を除き他は全員
お婆さんばかりである。
  骨太のがっちりした体格の看護士が数枚の資料に基づき、手術前日、当日、
術後の細かい注意事項を次々と説明していた。彼女は総勢10人ほどいる看護
士や事務員の中では愛想がなく、いつも眉間にしわを寄せている。
 「はい、聞いていますよ」
  イエローカードを突きつけられた早川はむっとしながらも堪える。
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  ここに集まっている患者の平均年齢は70歳前後か、中には耳の遠い人もいれ
ば、理解力が落ちてきている人もいる。したがって看護士さんの細かい説明を全
員が十分理解しているとは言い難い。なかには注意力散漫の人もいるから注意
せざるを得ないのかもしれない。
 (こんなに細かい話をいっぺんにしたって・・・・・・頭に入らないのではないのか?
みんなの顔がそう言っているのではないか?・・・・・・待てよ、ここは日帰り手術だ
から説明が多くなるのか?)  早川はそう思った。
  札幌市内には白内障の手術をする病院がたくさんあるが、手術件数の多いのは
手稲渓仁会、北海道大、札幌医大病院の順である。いずれも患者は1週間ほど入
院して手術する。
 早川が手術する八木眼科は入院設備がなく手術は日帰りである。しかし、院長の
腕は確かで、患者は引きもきらない。入院は大げさで準備も大変と、また自宅から
近いからと日帰り手術を選択する患者も多い。
  入院なら看護士がいちいち指示をしてくれるが、日帰り手術は患者自らやらねば
ならぬ事項が多く、説明が細部にわたるのはやむをえないとも言える。
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 (しかし、耳の遠い人は入院しても大部屋で看護士の話が聞こえなくてたいへん
かもしれない)
  早川はふと先日の生協ストアでの出来事を思い出していた。
  早川が妻の景子に頼まれて近くの生協ストアに練りわさびを買いに行った時の
事である。
  早川の目の前で前で買い物籠を出した爺さんにレジのパートさんが声をかける。
 「レインボーカードはお持ちですか?」
 「ビンボーカード?」  まじめそうな爺さんは問い返す。
 「レインボーカードです」
  パートのおばさんは笑いを押さえながらもう一度言う。
 「あ、レインボーカードか?持っていない」
 「分かりました」
  後ろで2人の会話を聞いていた早川は笑うに笑えない、
 (これが現実なんだ)
  と思うしかなかった。
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  スーパーや百貨店などのお店では老齢化対策で店員が大声でゆっくり話すよ
う心がけている。しかし難聴の場合は人ごみの中では余計聞き取りにくいようで、
老人は何度も聞き返す。また老人には白内障、緑内障、遠視、乱視など目の疾
患も多く、値札の文字を大きく表示し始めている。
  役所とその出先機関、銀行の窓口もたいへんである。番号札を配ったり、マイク
を使ったり、老眼鏡を備えているところもある。
  中でも、病院の老齢化対策はたいへんである。産婦人科、小児科、歯科以外の
病院は患者のほとんどが老人で、患者の対応の良し悪しが口コミで広まり、来院
数が大きく上下する。患者の評判が病院の経営に大きく影響する。
  だから看護士さんや事務員は大変である。待合室の患者の名前を呼んでも近く
に座って
いなかったり、聞こえていない。大きな声で名前を何度も繰り返し、ようや
く気付く有様である。
  問診表を書くにも、眼鏡を忘れたり、質問の意味が分からず何度も事務員に問
い返す。再来で健康保険証や診察表を出すにも、あちこちのポケットを探し回る。
  診察を受けるにも転ばないようゆっくり歩き、服を脱ぐのもスローで、診察時間も
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第6話 リカバリディスク  その1 ★






















           

         
























































































































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