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  早川の言葉に先生の顔が一瞬笑ったかのように見えたが、それは早川の錯覚
で先生はあくまでも真面目に説明を続けていた。
 「それは何十年前の話ですよ、今はそんな事はありません。今の手術は古い水
晶体を超音波の水でかき出して、その後にプラスチックの水晶体を挿入します。
  あなたの場合近眼と乱視が入っていますから、あらかじめそれを矯正する水晶
体を作っておくのです。日常生活をするにはこれで十分ですが、あなたの場合は
運転もされるという事で遠くの交通標識も見えるよう、手術後に眼鏡を作り直す必
要があります」
 「それじゃあ、手術をお願いします」  早川が懇願する。

 「それがですね、手術の予約が4ヶ月先まで入っているのです」
  八木先生が手術予定表をながめている。早川の前に暗雲が立ちこめる。
 「そんなに混み合っているのですか?仕方がありません、例え4ヶ月後でも免許更
新の再受験には間に合いますよね?」
  と早川は尋ねる。
 「それが、手術後水晶体が安定するまで1ヵ月ほど様子を見ますし、新しい眼鏡は
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その後で作ってもらう事になりますから・・・・・・」
  と言いながらも八木先生は何か思案している。

 「早川さん、キャンセルが出ているか?調べてみましょう。外でお待ちください、また
お呼びします」

  検査室のベンチで待っていると再び診察室に呼び込まれる。
 「早川さん、キャンセルがありました。9月2日ですがよろしいですか?」
  早川に文句を言う筋合いはない。
 「は、はい。ありがとうございます」  早川は深々と頭を下げる。
 「この先のスケジュールについては婦長さんから説明があります」
 「ありがとうございます」

  早川はほっと安堵の胸をなでおろした。

 (眼の手術か?失敗したらどうなんだろう、怖いな?)
  手術の日取りが決まって本当は喜ぶべき話なのに、早川は今度は手術の心配を
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し始める。
  病院の嫌いな早川はよっぽどの事がなければ病院へは行かない。20年くらい前
から高血圧で通院しているが、それ以外は歯医者ぐらいである。それもスルメのせ
いであった。

  日本酒が大好きな早川はお正月になると決まってスルメを一袋買って来る。夕方
になるとスルメを火であぶって裂き、それを肴にコップ酒を飲むのである。
  1月4日、朝起きると奥歯が痛い。覗き込むと歯茎が赤く腫れていた。昨夜のスル
メが奥歯の隙間に挟まり、唾液で膨張して歯茎を圧迫していた。スルメの皮が挟まっ
たのか爪楊枝で押し込んでも抜けてこない、そのうち歯茎を傷つけ血が出てきた。
 「お父さん駄目よ、歯医者に行かないと・・・・・」
  との妻の一言で早川はしぶしぶ歯医者へ行く事になった。しかし、運の悪い事に
どこも正月休みが続いていて、開業している歯医者を見つけるのに苦労する。
 「これで一応処置は終わりましたが、歯石がたまっていますので取られた方が良い
かと思いますが・・・・・・」
  とようやく見つけた歯医者の先生に勧められるが、
 (スルメが取れたら後は用はない、痛いのはもうたくさんだ)
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 「もう少し落ち着いてからにします」

  そう言って早川は断る。
  歯を削られるのも嫌だが、目の玉をいじられるのはもっと怖い。早川は新たな不安
を抱えたまま帰宅する。

 「検査の結果は?」
  妻の景子が尋ねる。
 「見えないのは白内障のせいだって」
  早川は憮然として話す。
 「そういえば、数年前留萌の義姉さんが白内障の手術をしたのよね」
 「そうだったか、自分とは関係ないと思ってはっきり覚えていないや」
 「それじゃあ、早く手術してもらわなきゃ」
 「ところが手術待ちの患者がいっぱいで4ヶ月も先になるんだって」
 「それで免許更新は間に合うの?」
 「それも話したんだ・・・・・・するとね」
  早川はその後の話をして聞かせる。
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第4話 運転免許一時停止  その4 ★★★★






















           

         
































































































































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