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おじさんの料理日記 

小説「猫踏んじゃった」



喜劇「猫じゃら行進曲」

小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー


イタリアかけある記

アイロンがけをしている妻の景子は早川の心境を察していたが知らん振りして仕
事を続けている。

  早川は子供の時に飲んだどぶろくでお酒に目覚めたと言って良い。
  たまに子供に振舞われる初期のどぶろくは、甘くて口あたりが良く、そのうちに身
体がほのかに温まり、ふわふわと宙を飛んでいるような心地良い気持ちになってく
る。この快感を味わうべく両親のいない間時々どぶろくを失敬して飲んでいた。
  戦後もどぶろくはご法度だったが、食糧難でもでん粉ともやしと米こうじさえあれ
ば誰でもかんたんに造れるため、たいていの家庭では密かに造って飲んでいた。
この盗み酒がきっかけになり早川の酒好きは高じていった。
  高校時代、留萌高校に通うべく留萌市内に下宿していたが、同じクラスに風呂屋
の息子がいて仲良くなった。両親は風呂屋が忙しく息子を見ている暇がなかった。
それを良い事に時々いっしょに勉強すると称して遊びに言っては親父さんのぶどう
酒をご馳走になった。屋根裏部屋は物入れで友達の親父のぶどう酒や愛読書の
春本があった。
  当時のぶどう酒は合同酒精の蜂ぶどう酒とかサントリーの赤玉ポートワインが有
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名だったが、彼の親父のぶどう酒は名も知らないメーカーの一升瓶だった。いずれ
も焼酎と麦芽糖とぶどうエッセンスで造った合成酒で、甘くて飲みやすかったが、こ
れも飲みすぎると猛烈な二日酔いを起こした。
  北国学園大学在籍中は奨学金ももらっていたが、酒代欲しさに家庭教師などの
アルバイトに精を出し、その稼ぎで安い焼き鳥屋やおでん屋を飲み歩いた。この時
代も庶民は安い合成酒や安い合成ウィスキーを飲んでいた。
  元の会社北斗トレーディングに勤めていた時は、管理畑の仕事が中心で毎晩残
業が多く、必然的に帰りには居酒屋に立ち寄る機会が多かった。田舎出で口数の
少ない早川は独りで酒を飲んでは理不尽な管理社会のうさを晴らしていた。
  酒はどんどん強くなっていったが、酒を飲んで管を巻いたり暴れ回った事は一度
もない。宴会でも飲み過ぎたなと思ったら姿を消す、親父に似て人に迷惑をかけな
い酒飲みである。この40年間酒を飲まない日はほとんどなかった。若い時、扁桃
腺炎で飲もうとしても飲めなかった数日だけの事である。
  会社の健康診断でも血圧が少々高いだけで、肝臓に係わるガンマGT値も毎年
警戒値すれすれで潜り抜けてきた。血圧が高くなったのは酒の肴のせいで以後は
塩辛や漬物など塩辛い物は避けるようにしてきた。
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  退職しても毎晩晩酌は欠かさず、家に酒を切らした事がない。ビール、日本酒、
焼酎、ウィスキー、ワインなどほとんどの酒の種類を常備しているが、
いちばん好き
なのは日本酒である。ビール1缶と日本酒2合が1日の定量である。
  早川は40何年間毎晩酒を飲んできた習性で、午後5時を過ぎると喉が渇いて
そわそわして来る。アルコール依存症ではないが、酒を飲みたい欲求にかられる。

  早川は白熊のように居間を行ったり来たりしていたが、そのうち我慢が出来なく
なり独り言を言う。
 「俺は酒が顔に出ないからビール1缶ぐらいいいか?」
  と酒飲みの理屈をつけて冷蔵庫へ向う。
 「いっその事理事会を欠席してこのまま飲み続けようかな」
  早川はビールを飲みながらそう言って見るが、妻の景子は
 (何を馬鹿な事を言っているのか) と動じない。
 「寒いから車で送ろうか?」
  ビールを1缶飲み終えた頃合を見て景子がさりげなく言う。
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 「そうするか」  早川はすんなり受け入れジャンパーを羽織り妻が運転する軽自
動車に乗る。北海道の春はまだまだ寒い。

 「今度東4A分会長になる早川です」

  東山町内会館の大ホールの受付で早川が名を告げる。
 「早川さん?あなたはオブザーバーですからこちらの席へ」
  総務部所属と思われるゴルフシャツを着た、同年代のスリムな男性にいちばん後
ろの席へ案内される。
  明るくて天井の高い会場にはロの字型にテーブルが並ぶ。正面の舞台の下に執
行部の席が1列並び、両脇に2列ずつ事務局席が並ぶ。正面の反対側つまり入口
に近いところに2列分会長席が並び、新参者の役員は3列目の席に座る。会場は私
語が飛び交いざわざわしている。
 「それでは定刻になりましたので臨時理事会を開催します」
 執行部席のいちばん左端に座っている総務部長らしき人がが開始を告げる。
 「最初に松田会長の挨拶です」

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第2話 想定外の出来事  その5 ★★★★★






















           

         

































































































































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