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イタリアかけある記

  妻は妻で結婚して若いうちは夫が中心の生活をし、子供が出来ると子供中心の
生活を送って来た。その子供が成長し家を出て行くと自分中心の生活となり、夫の
存在が薄れて来る。
 「人間元気なうちは社会のために働き続けるべき」と言う考えにも一理はあるが
「夫は拾い仕事でもしてくれて家にいない方が助かる」と考えている主婦もいる。
 「お父さん長い事ご苦労様、今後はゆっくり身体を休めて好きな事をやってね」と
言う家族のやさしい言葉もなく、急に粗大ゴミが増えたような扱いをするからますま
す夫婦の仲が悪くなり昨今は定年離婚も増えてきている。

  さて、早川が2階の書斎に戻り、回覧板の束をほどくと、がん検診の案内、近く
の小中学校便り、交番便りなどなど7種類の回覧板があった。この他に昨日さっ
ぽろ市から届いた広報もある。
  分会長は町内会によっては区長と呼ぶところもあるが、班長経験者から昇格す
る場合が多い。
ところが早川は班長の経験がないのである、したがって班長の所

にどんな荷姿で届けるのかが分らない。
 (これは定年になったからと言ってのんびりともしておられない)
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  そう思った早川はライザ・ミネリこと加藤未亡人から引き継いだたくさんの封筒を
取り出す。班長名簿、理事会、町内会費、日赤募金、夏祭り、東山神社、赤い羽根、
排雪関係などの封筒が狭い書斎に広がる。
  まずは班長名簿と町内会会員名簿の袋を開く。
  これによると東4A分会には約200世帯の人が住んでおり、アパートに住む一部
の世帯を除き加入率は95%となっている。ここに11の班と同数の班長がいて、1
班あたり20世帯前後を所管している。
  回覧板の配布は月2回で対象は町内会会員のみ、広報の配布は月1回で対象
は全世帯である。分会長の任期は2年だからこの仕事はまだまだ続く。
 (どうすれば効率よく配布出来るか?)
  そう考えた早川は回覧板は早川の自宅に届いたように班ごとに丸めて細長い紙
でとめる事にする。広報は郵便受けに入らないから、班長が不在の時には玄関前
に置いてくる事も想定しポリ袋に入れる事にする。
  配布漏れや数え間違いを防ぐために、回覧板を丸めて留める細長い紙と広報用
ポリ袋に貼るシールをパソコンで作る。どちらも班の番号と班長名と配布数を書き
込む。
これを使い回覧板を班ごとに丸めると、今度は100円ショップへポリ袋を買
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いに行く。これにシールを貼り各班ごとに広報の数を数えてポリ袋に入れる。
 「ようやく各班長に配布できる状態になった、しかし問題はどうやって訪問するか
だ」

  早川は日頃道で会っても挨拶すら交わした事もない班長宅を突然訪ねるのは気
が重い。早川はしばし考えてから前任者の加藤さんに電話してみる。
 「そうねえ、まだ分会長の名刺も出来てないと思いますし、いっしょに歩いて私か
ら早川さんを紹介した方が良いかもしれませんね?」
  腰が引けている早川を察したのか、加藤さんが電話の向こうでうなずく。
 「そうしていただけると助かります」  一瞬早川の声がハイになるが、同時に今日
はまだひげを剃っていない事に気が付く。
 「配る用意は出来ていますが明日ではいかがでしょう?」
  早川はあわてて明日の配達を提案する。

 「明日の午後は用事がありますから午前10時でも良いですか?」
 「私の方は異論がありません、それじゃあ午前10時にお迎えに上がります。あり
がとうございます」
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  早川はほっとして電話に向って深々と頭を下げる。
  こうして加藤前分会長代行の力を借りて早川の初仕事が始まった。

 「忙しいところすみません、お世話になります」
  翌日早川が加藤前分会長を軽自動車で迎えに行く。
 「初めてだから勝手が分らなくて大変よね」  加藤さんは早川を気遣う。
 「加藤さんの引継ぎ以外に何にも説明がなくて困りました」
  助手席に乗った加藤さんに早川は正直な気持ちを話す。
 「私も旦那が突然亡くなって代わりをしましたから気持ちは良く分ります。町内会の
仕事は旦那がやっていましたから傍で見ていたとは言えまったく分かりませんよね、
それなのに町内会からは仕事のやり方について何も説明がなかったのですよ」
 「そうなんですか?大変でしたね。町内会の幹部は説明しなくてもみんな分ってい
るだろうと言う態度ですよ。まったくの新人は途方に暮れますよ」
 「そうなの、みんな長い間町内会の仕事をやっているからそれが当たり前だと想っ
ている節があるわね」
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第2話 想定外の出来事  その2 ★★






















           

         

































































































































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