きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴 

おじさんの料理日記 

小説「猫踏んじゃった」



喜劇「猫じゃら行進曲」

小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー


イタリアかけある記

ですよ。子供達は独立して別居しているし、孫たちもお正月や入学祝いなどお小遣
いを上げる時しか遊びに来ない。家事をしている婆さんはともかく爺さんは猫の額
ほどの敷地の雪かきや草むしりをするしかする事がない、マンションなどに入って
いたらそれすらない」
  そう言うと高橋君は残っていたフランスパンに手を出す。
 「昔の年寄りは良かったですよ、同居していた孫とも遊べるし・・・・・・うちの親父は
紋別の先の渚滑(しょこつ)で年を取っても漁師をしていましたが、海が荒れた日は
家の中で網を繕ったり仕掛けを作っていました。漁師ですから船上でかんたんな料
理は作るし編み物もやっていました」
  晴山が父親の話をする。
 「編み物?」 大木女史が訊ねる。
 「若い時には遠洋漁業の手伝いに出ると漁場に着くまで何日間も暇だから自分の

セーターや股引を毛糸で編んでいたそうです。今は漁師を辞めてさっぽろにいる長
女一家と同居していますが、『せっかく孫のマフラーを編んでも孫は嫌がって身につ
けてくれない』とぼやいています」
021


  さすがの晴山もこの段になると恥ずかしそうに話す。
 「そうですか、漁師もいいが農村の年寄りもいいですよ。年をとっても昔とった杵柄
で知識と経験はあるし、体力に合わせ参加できる細かな農作業がたくさんある。冬
には冬で春の種まきの準備もあるからね。何よりも良いのは親子3代同居がふつう
で、年寄りから小さな子供までそれぞれ能力に合わせ仕事と家事を分担しているか
らね」 そう高橋君が話すと、
 「でも農家のお嫁さんはたいへんよ。お義母さんが元気なうちはいつまで経っても
主婦の座がやってこないって・・・・・・農村では50歳過ぎても若妻と呼ばれるんだ
って?なんかおかしくない?」 
  誰に聞いたのか大木女史が異論を唱える。
 「安藤さん、心配しなくともいいよ。どう考えても農家の嫁にはなれないから、はは
は」
  晴山君が茶化す。

 「そんな問題ではないの」
  大木女史が晴山君を睨みつける。
022


 「分っています」
  晴山君が頭を下げる。

 「ところで、早川先輩、本当のところこれから毎日どうするの?」
  デザートのファーブルトンアイスクリーム添えを食べながら大木嬢が訊ねる。
 「そりゃ決まっているさ、毎日が読書三昧かレコード三昧だよね、先輩。先輩は元々
仕事なんて大嫌いでしぶしぶ勤めていた人だから・・・・・・」
  晴山君が早川に代わり答える。
 「うーん、言い辛いが、町内会の仕事を手伝う事になっちゃって・・・・・・」
  早川は照れくさそうに話す。
 「うっそ、それはないよ。そりゃ勤まらないよ、このとおり仏頂面でもともと人付き合
いが悪いもの、少し付き合うと裏表のない良い人だと分るけれども・・・・・・」
  晴山君が考えられないと声を上げる。他の2人も驚いた顔をする。

 「やあ実はね、こんな経過があってさ・・・・・・」
  早川は東山町内会の役員にさせられた経過をかいつまんで話して聞かせる。
 「そうですか、やるっきゃないのですか?」
023


  高橋君も心配する。
 「うん、やるっきゃない・・・・・・なんとかなるさ」
  早川は最後に小さな秘密を打ち明け、ほっとしたかのようである。そして、
 「あー、とても美味しく、楽しかった。みなさんありがとう。本当に素晴らしい最後の
晩餐だった」
  と心を込めて頭を下げる。
 「最後の晩餐?そんな事はないですよ、先輩。これからも時々こうして会いしまし
ょうよ?」
  高橋君が提案する。
 「そうしましょう」、「そうしよう」
 「それはまことにありがたい、またいつか会うのを楽しみにしているよ・・・・・・今日
はありがとう、みなさんも元気で活躍して下さい。それじゃあこれで・・・・・・」
  早川は嬉しさを隠せずみんなに別れを告げ一足先に店を出る。
 (明日から俺の生活はどうなるのか?)
  家路に向う早川の足がもつれていた。


024

タイトルイメージ   タイトルイメージ 本文へジャンプ



第1話 最後の晩餐  その6 ★★★★★★






















           

         
































































































































前のページへ 次のページへ


トップページへ戻る