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小説「猫踏んじゃった」



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小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー


イタリアかけある記

 「早川先輩、明日から休みだから二日酔いになっても構いませんよ、どんどん飲ん
で下さい。どうですか?40年以上も毎日会社に通って明日から出勤しなくても良い
と言うのは?」
  この中ではいちばん定年が近い高橋君が訊ねる。
 「いいねぇ、明日から役員や部下や取引先に気を使わなくてもすむからね」
  早川はほっとしたかのように笑う。
 「何を言ってるんですか?あれだけ上役にも部下にも言いたい放題言っておいて、
どこに気を使っていたと言うんですか?私はいっしょに仕事をしていていつもハラハ
ラしていましたよ」  晴山君が赤い顔をして早川の方を見る。
 「そりゃあ、しょうがないだろう。それが私の性格だから・・・・・・」
  そう言って早川は底に残ったワインを飲み干す。すかさず大木女史が空になった
グラスにワインを注ぐ。
 「早川さん、それで明日から毎日家にいるの?」
 大木女史もほほをほんのり染めながら早川に訊ねる。

 「そりゃ決まっているさ、毎日が日曜日だから」
017


 「それで奥様は?」
 「うん、正直言って明日からの生活に戸惑っているみたいだな」
  との2人のやり取りに、
 「そりゃないでしょう?長年家族のために汗水たらして働いてきたんだから、すんな
り受け入れなきゃ・・・・・毎日何もせず家でごろごろしていたっていいでしょう?」
  晴山君が抗議する。
 「晴山君、奥様だってたいへんなのよ、旦那が毎日家にいるんだから、それも3食
昼寝つきで・・・・・・奥様にしてみればお正月や連休以外に経験のない生活よ」
  大木女史が同性のよしみで早川の奥さんに同情する。
 「一家の大黒柱をまるで粗大ゴミみたいに思うとは?そんなおっかなら、俺は即
離婚だな。旦那の長年の苦労を何と思っているんだ?」
  お酒のせいもあり晴海君の顔が赤くなってくる。
 「まあ、晴山君、そう興奮するなって。お前だって退職する時が来れば分るよ」

  高橋君が晴山君をなだめる。
 「昔から良く言うだろう?『亭主は元気で留守がいい』って・・・・・・女はいつも現実
的で男はいつもロマンティックさ。お前の愛妻の志津子さんも同様さ」
018


 「志津子も?うちの志津子はそんな女と違うよ。俺を愛しているから」
 「ははは、そうだ、そう思っていた方がいいよ、家庭の平和のために」
  2人の言い合いを笑って聞いていた大木女史が口を開く。
 「うちの家庭でも父が定年退職した時は大変だったわ・・・・・・」
  大木女史が父親の話を始める。
 「私の父親は麻雀やゴルフもしたし、家庭菜園の手がけていたから退職後もやる

事はありましたが、それでも母親は慣れるまで大変だったようです。昼ごはんも女
1人だとそこいらにある残り物ですませば良いけれど父親がいるとそうは行きませ
んからね・・・・・・ほんと」
  大木家の話にみんな身につまされる思いであった。

 「それにしてもデパートに行ったり地下街を歩くと婆さんが多いのには驚くね、何
も買っている風には見えないが・・・・・・爺さんは何をしているんだろう?」

  重い空気を和らげるように高橋君が話し出す。
 「ゲートボール、パークゴルフ、山登り、スキー、釣り、家庭菜園をやっているのは
ごく少数で、大半の爺さんは家でテレビのを見てごろごろいるんじゃないのかね?
019


婆さんはそんな爺さんの顔を見たくないから用事がなくても街へ出かけるんだ。こ
れ位ならまだましとしなければいかんよ。自分のする事がないくせに婆さんのする
事が気になり、スーパーの買い物にもぴったり付いて歩くのもいるしね・・・・・・俺は
濡れ落ち葉は嫌だね」
  早川が解説する。
 「早川先輩、必ずしもそうじやありませんよ」

  大木女史が口を挿む。
 「と言うと?」
早川が大木女史の目を見る。
 「見ていると、2人ともお年寄りで、お婆さん1人ではお米や牛乳やお酒などの重
い物を持って歩けないのでお爺さんに来てもらっているのよ。なかなか微笑ましい
風景だわ、昔の年寄りなら考えられない事だわ・・・・・・それだけ老齢化が進んでい
るのよ」
 「そういう事もあるか」
  早川が頭をかく。
 「都会に住む元サラリーマンの年寄りはお金のかかる趣味以外にする事がないん
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第1話 最後の晩餐  その5 ★★★★★






















           

         
































































































































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