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イタリアかけある記

 神田おばさんの旦那は元高校の体育教師で退職後つい最近までこの東4A分会
の分会長をしていた。神田おばさんは早川の煮え切らない態度にも根負けせず執
拗に食い下がってくる。
 「まだ勤めていますから」 と早川が断ると、
 「来年の4月からでいいの、考えておいてね」
 そう おばさんは切り返す。おばさんは早川が来年3月に退職するのを知っていた。
妻の景子から聞いていたらしい。神田おばさんは話をするだけすると踝を返してま
た花の手入れに戻って行った。

  早川四郎、昭和19(1944)年6月4日生まれ、来年の平成21年の誕生日で64
歳になる。
  早川はさっぽろ市に本社がある商事会社北斗トレーディングに勤め企画部長をし
ていたが、3年前の誕生日に定年退職を迎えた。その後会社の勧めもあり、子会社
の北斗アウトソーイングの総務部長として勤めていた。
  しかし、早川の後には団塊の世代が大挙して続いており、彼らの再就職のために
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道を譲ることにし、来年の平成21年3月末には身を退く事になっていた。

  年が明けて3月下旬の事、早川が裏庭の雪が消えたかどうか見に行ってみると、
神田のおばさんが庭木の冬囲いを外していた。早川は昨年の秋に町内会の役員
に誘われていた事をすっかり忘れていた。

 (これはまずい) そう思う間もなく神田のおばさんが早川の近くにやって来た。

 「早川さん、そろそろ決心がついた?」
 おばさんはむずかる赤子をあやすようににっこり笑う。
 「ううん・・・・・」
  早川はなおもためらう。それを見た神田おばさんはさらに続ける。
 「実はね、うちの旦那がやっていた分会長なんだけど、高校の体育祭の陸上競
技でピストルを撃ち続けたせいであのとおり耳が遠くなってね。そのうち町内会の
理事会の話が聞こえなくなって辞めたの。それで班長をやっていた加藤さんに代
わってもらったんだけど、その加藤さんが昨年の秋に突然亡くなってしまってね・・・
・・・それでその後何ヶ月かは奥さんに代行してもらったんだけど、女性が班長を束
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ねるのは大変なのよね。そこで旦那さんに引き受けて欲しいのよ」
 「そうでしたか」
  そこまで聞いた早川はだんだん断り難くなってきた。上に姉が3人の家庭で育っ
た末っ子の早川は年上の女の頼みに弱い。
 (なよなよとしたか弱い未亡人の窮地を救わなきゃ男が廃る・・・・・・ここは引き受
けてあげなきゃ?)と思い始めた。
 「わ、分りました」
こうして早川は神田おばさんの頼みを了承してしまった。

  実のところ早川は町内会について何も知らなかった。東山町内会の班長は当番
制で15年に一度くらいの割り合いで早川家にも回ってきたが、班長の仕事は妻の
景子がやっていた。
  働き盛りの早川は毎日会社が忙しく、町内会には興味もなく、回ってきた回覧板
も一度も読んだ事がない。したがって町内会が何をやっているのかまったく知らな
い。
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 (社会奉仕とは名ばかりで、どうせ暇な老人が暇つぶしにやっているだけさ。たま

にはカラオケも出来るし、ただ酒も飲めるようだから・・・・・・)
  とそう思っていた。
  実際昔は町内会役員が良く酒を飲んでいると噂になっていた。今のように老齢化
対策や青少年対策もそれほど重要ではなかった。財政的にも余裕があったのだろう。
 「現役時代は会社を通じて社会に貢献してきたが、退職後は町内会活動に身を投
じ社会に奉仕します」
  とりっぱな事を言う人もいないでもないが、何でも額面通り受け取れない早川には
そんなてらいもない臆面なさが信用出来ない。
 (羞恥心がないのか)

  早川はついつい思ってしまう。

 
  神田おばさんに了解の返事をした数日後の3月29日、日曜日を狙って前任の分
会長代行である加藤未亡人が早川家に引き継ぎにやって来た。
 「加藤です。このたびは分会長の仕事を引き受けてくださりまことにありがとうござ
います」
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第1話 最後の晩餐  その2 ★★






















           

         




























































































































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