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 「その他の項ですが、当町内会としても東日本大震災の義援金を出したいと考
えます」
  平成23(2011)年3月30日、さっぽろ市東山町内会の臨時理事会が終わり
かけた頃司会の坂本総務部長がおもむろに義捐金の提案をする。
  今日の臨時理事会は4月24日の定期総会に提出する議案の審議のために
午後6時半から開催されたが時間は優に2時間を超えていた。執行部の要領の
悪い分りにくい説明に出席した理事達はみんな一様にイライラしていた。
  理事達は早く帰って大好きな酒を飲んだり夕食を食べようと考えていた矢先の
提案に、「まだあるのか?」
  と言う顔をする。
  そんな理事達の気持ちにはまったく頓着せず坂本総務部長は続ける。いつもの
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通りマイペースである。

 「募金の方法は執行部でも考えましたが、夏の共同募金を徴収する際に一世帯
当り100円上乗せするか、それともさっぽろ市から委託されている公園管理費か
ら充当するか、方法はいろいろ考えられます」
  理事達は東日本大災害には関心があるが、 坂本総務部長のとらえどころのな
いあいまいな提案に反発し、いっせいに私語を始める。
 「何言ってんだ、募金は各自がすでにやっているだろう?」
 「共同募金を集める班長にそんな面倒な事をさせられるか?共同募金だけでも
大変なのに・・・・・・」
 「公園の管理費を当てるって?おかしくないかい?それじゃあ清掃に従事した理
事達の寄付金になってしまうだろう?」
 「捻出方法が問題だよ」 古い理事たちが勝手に自分の思いを披露する。
  理事達の平均年齢は70歳を超えていて耳の遠い人が多い。各理事は自分が
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良く聞こえた部分だけに反応する。
 (また始まった)
  早川四郎は約60人ほどいる理事の中では数少ない60歳代の理事である。2
年前の退職時に町内会
の理事(分会長)になってちょうど2年目である。早川はい
つもながらの下手糞な理事会運営にうんざりしていた。

  (どうして俺はこんな町内会に参加してしまったのか?)
  早川は周りの騒ぎを他所に2年前の事を思い出していた。

 「旦那さん、町内会の分会長をやってみない?」

  平成20年の秋のある晴れた日曜日、早川四郎が猫の額ほどの裏庭でデジタル
カメラを持って花を写しているとどこからか声が掛かる。
  カメラのファインダーから目を離し周りを見回すと早川の裏庭と隣接する神田さん
の大きな庭におばさんが立ってこちらを見ていた。
  70歳はとうに超えたと思われる小柄なおばさんはにんまりと微笑む。いつものよ
うに日焼け防止の白い帽子を深々とかぶり花柄のエプロンをかけて花の手入れを
していたようである。
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 「町内会ですか?」  神田おばさんの予期せぬ提案に早川はうろたえる。
 (何とかこの申し出を断らなきゃ)

  早川は断る理由がないか、あれこれ考える。
 (そうだ、最近町内会ではゴミ置き場を巡って住民同士が揉めているとかみさんが

言っていたな?揉め事は会社だけでたくさんだ)
 「町内会にはいろいろ揉め事があるんでしょ」
  早川は遠回しに受けない理由を述べる。
 「ゴミ置き場の事?あれはもう解決したの」
  神田おばさんは事も無げに答える。
 「それでもねぇ、口下手な私には向かないと思いますよ」
  早川は自分の性格を良く知っていた。留萌の寒村で育った早川はもともと口数
が少ない。北国学園大学を卒業し地元企業に就職したが、内向的で営業には向
かないと判断され管理部門に配置された。だから今でも交友範囲は狭く、特に初
対面の人と話すのは苦手であった。
 「そんな事はないわよ。うちの旦那だって長い事やってきたんだから・・・・・」
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第1話 最後の晩餐  その1 ★






















           

         


















































































































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