きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー

  最近退職する人は、これまで通り退職後も集団の一員として過ごす事をいとわない人
もいるが、「退職したらこれまでのしがらみから逃れたい、自由に生きたい」と希望する人
も増えてきている。
  だから最近の退職者の中にはOB会に入らない人もぼちぼち出てきている。古い人に
はこれが理解出来ないらしい。
 「在職中、会社にお世話になっただろう?退職したらOB会に入ってこれまでのお返しを
するのが理屈だろう?」そう思っている。
  OBの中には、現職時代の上下関係をそっくりそのまま死ぬまで引きずっている人が
多い。特に役職が上の方で退職したOBほどそれが強い。
 「さっぱり俺の相手をしてくれないな(たまには俺に飲ませろよ)」
 「退職したら山菜や釣りの魚が届かないな」
 「OB会のゴルフに出る時は当然後輩が送り迎えするものだ」
  こういう年寄りが増えてきている。この事が若い人がOB会に入らない理由になってい
る事に気がつかない。
  57歳を過ぎたOB会の新参者は長生きする先輩からするといつまでも「ひよっこ」で、
いつもあごで使われた。
283


  猿山の猿ではないが、そのOB会の部会長や会長の座の獲得を巡って激しい攻防が
続くとも言われている。
 北国商事鰍ヘ創立80周年を迎えるが、OB会の会員も平均寿命が延びるにつれその
数は増える一方である。 
 北国商事外B会の中にはゴルフの会「ホワイトペッパー」もあった。OB会の会員が増
えるにつれこちらの会員も増えた。
 「ホワイトペッパー」では夏場に年6回コンペが開催される。1回のコンペは総勢が120
名にもなるから、事務局はその会場の確保、賞品代の捻出に苦労していた。
  もっと大変な事はその組み合わせであった。
 「あいつとは一緒にやりたくない」
 「A氏とB氏は同じ組み合わせにしない方が良いよ、:喧嘩が始まるから・・・・・・」
  現役時代からの怨念か?はたまた相性の問題なのか?年を取ってくるにつれ各人の
わがままが出る。
  新参者の事務局はこれらの意見を尊重して(?)120名の組み合わせを作らねばなら
ず、組み合わせ作業はかなり手間がかかる。組み合わせを発表した後もそれを見て再
度変更を要求する者がいる。
284


 「北ちゃん、あれだけ大盛況を誇っていた『ホワイトペッパー』のゴルフコンペの出席者
が最近では半分の60名ほどになったとさ」
  修三の会社に久し振りに同期の近藤君がやって来た。
  近藤君は修三と同じく5年前に北国商事鰍フ勧奨退職を受け、(社)北海道産業振興
会の事務局長として再就職していた。
  近藤君と修三はともに北国商事鰍nB会に加入しているが、ゴルフの会「ホワイトペッ
パー」には加入していない。
 「近ちゃん、そんな事になっているの?どうしてさ?」
 「夏場毎月1回、1回当りの費用は昼食代を含めて約1万円さ、年間6万円だから年金
者には負担になって来たらしい、生活の方も灯油代、ガソリン代も大幅に上がって来た
からね」
 「ふうん、10年前に退職した人は年金が最高だったはずなのにね・・・・・・」
 「その人達はともかくそれ以降に退職した人はたいへんなのでは?新たにもらう人達
の年金が年々減らされて来ているからね・・・・・・」
 「我々も減らされた口だけれども・・・・・『ホワイトペッパー』のゴルフコンペの参加者が
285


減ったのはそれだけじゃないんでない?」
 「何だい?」近ちゃんが怪訝な顔をする。
 「OB会に入って何年経っても小僧扱いで、何時までもアッシー君をさせられるのは適
わないとか?そんな事もあって若い人達の参加が減っているんじゃない?」
 「そうだなあ」
 「若い人達が先輩のわがままに疲れて来たんじゃない?最近退職した人たちは親しい
仲間で同じゴルフ場の会員になって、仲間内でゴルフをやっているらしいよ」
 「そうかい・・・・・・ところで北ちゃんはOB会の地区部会には出席しているのかい?」
 「北国商事鰍退職してからOB会の会費は払っているが、今の会社に勤務している事
を理由に一度も出席していないよ」
 「俺のところの地区部会は大物が多くてね最初から参加させられたさ」
  近ちゃん事、近藤君は修三と違い、各種の会に参加するのを楽しみにしている。
 「来年この会社を辞めたらOB会の出席をどうしようかな?俺のところの地区部会も大
物が多くて出席するのが億劫だな・・・・・・」
 「北ちゃん、あんたはカメラやパソコンやら自動車の運転やらする事がいっぱいあるか
ら良いさ、俺には何もないからね・・・・・・」
286


  2人はそれぞれ退職後の生活を思い浮かべていた。

  修三は「退職後も会社の人間関係を引きずって生きるのは嫌だ」と思っている。もちろ
ん在職中お世話になったり、一緒に遊んだ仲間の葬式には出るつもりである。
 (上っ面だけの交際はなくても良い。本当に親身になってくれる友人が数人いれば良
い) 修三は心からそう思っている。それが態度に出るから先輩達に好かれない。
 (俺は別に好かれなくても良いのだが・・・・・・)

  平成18(2006)年11月3日文化の日、修三は会社の東南アジア旅行のトランクを集
荷業者に託してから、HDDレコーダーに録画した「嬬恋ライブ2006」を見ていた。
  これは今年9月23日に静岡県掛川市で8時間半にわたり開かれた「吉田拓郎&かぐ
や姫in嬬恋2006」のライブ放送を録画したものである。
  修三は嬬恋の世代ではなかったが、大型液晶テレビとHDDレコーダーを買ったため
何となく録画しておいた。それを今日になりいつもの癖で飛ばし飛ばし見ていた。
  画面では団塊の世代の、頭が薄くなったり白い物が目立つ腹の出たおじさんとおばさ
ん達が総立ちで声援していた。
287


  午後9時25分、吉田拓郎が最後のアンコールに立った。
 「・・・・・・私は今日まで生きてみました
       そして今思っています
       明日からもこうして生きていくだろうと・・・・・・」
                    「今日までそして明日から」(作詞・作曲 吉田拓郎)

 (今の会社を辞めたら、俺は本当に会社の人間関係のしがらみを断ち切れるだろうか
?・・・・・・)
  間もなく毎日が日曜日となる修三はそう思うと今夜も眠れそうになかった。






288

タイトルイメージ   タイトルイメージ 本文へジャンプ




第12話 マルタ島の猫 その4 ★★★★
























































 
















































































                                                       

前のページへ 作者 あとがき を読む


トップページへ戻る