きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー

  犬族はとにかく群れたがる。同窓会、同期会、同郷会、同じ勤務地を経験した者の
会、同じ部門を経験した者の会、山登り・ゴルフ・麻雀・合唱・詩吟などの同好会、OB
会、町内会、老人クラブなどなど・・・・・・どんな会にも出席する。
  犬族はどこかに所属していないと皆から取り残されそうで寂しくてたまらないのであ
る。
  世の中どちらかと言うと犬族の方が数多く、猫族は少数派である。
  特に団塊の世代ではその数のせいか、犬族が圧倒的に多く、集団としては力がある
ように見えるが、個々の個性は薄く個人の力は弱いとさえ言える。
  これらの団塊の世代がこれから組織を離れた時、独力でどれだけ力を発揮できるか
見ものである。

  修三は葬式までお祭り気分で参加する犬族が嫌いである。
  前の勤務先、北国商事鰍フ社員達は葬式が大好きであった。「死亡のお知らせ」が回
覧されると職場ではたいへんである。
 「会社の対応は?」
 「役員・幹部社員は誰が出席する?」
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 「OBには誰と誰に連絡するか?その係りは?」
  職場がざわざわと騒ぎ出す。
  そのうち地方の出先へ電話する輩も出てくる。
 「お前、○○の葬式に出るか?出る?何時の汽車だ?晩飯は?葬儀が終ってからに
するか?久し振りに積もる話もあるしな・・・・・・」
  まるで葬式を借りた同期会である。

  そのうちに喪主の経歴を披露する者も出てくる。
 「あいつの死んだ親父は地方公務員でもう死んだはずだな。あいつは東京の私立大学
出だが一浪しているはずだ。奥さんは帯広支店の営業課に勤めていた人さ。当時○○と
彼女を巡って張り合ってな、あいつが仕留めたのさ。子供は2人とも大学を卒業し、1人
は製薬会社、1人は旭川市役所に勤務しているよ。親の土地も相続するからこれからあ
いつの生活は楽勝さ」
  自分が喪主の事をいかに知ってるか、とうとうと話し始める。

  実際の葬儀になるともっと動きが激しくなる。他人より早く葬儀場に駆けつけ、喪主よ
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りも役員・幹部社員の目に付くように立っている。葬式と言うのににこにこ愛想を振りま
いている。
  葬儀中は居眠りをしているが、終了するといち早く出口の方に立ち、あたかも遺族の
ように帰る客にいちいち頭を下げる。
  翌日、仕事が終わり飲みに行くと、参列者の名前を披露し、葬儀で仕入れた故人もし
くは家族の情報を事細かに周りの人に話して聞かせる。
 「昨日の葬儀だが、関係者は運転中の事故死と言っているけれども、どうやら乗ってい
たのは女の車らしい」
 「そうかい、あの人も真面目な顔をして、人間分からん物だね」
  さすがにこの辺のところに差し掛かると声を潜める。
 「事故死でみんなの関心と同情が集まり、香典もたくさん集まり、葬式代も十分出たと
思うよ」
  こんな話を来る人来る人に言って聞かせる。
  亡くなった人の冥福を祈るというより体の良い酒の肴である。

  こういう輩はとかく他人の事が気にかかるらしい。
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 「同期の○○が昇進した」「○○が離婚した」「○○がゴルフ場の会員権を買った」「○
○が外車を買った」「○○がマンションを買った」「○○の再就職先の待遇が良いらしい」
「○○の体調が悪いらしい」
 (それに比べて自分は恵まれている、または恵まれていない)
  と暗にそう言っているのである。
  他人の情報を集めるために、そして自分の存在をアピールするために、ありとあらゆ
る会合に参加する。そして自分が持っている他人の情報をこれでもかと言わんばかりに
語って聞かせる。そうしなければ新たな情報は得られない。
  同じように他所で自分の事が話題になっている事も忘れて・・・・・・

  他人の事をあれこれ詮索するのは旦那だけではない、奥様方の中にもいる。社宅の
会話が良い例でおる。
 「○○さんは出会っても挨拶をしない」「○○さんの奥さんは服装や化粧が派手であ
る」「○○さんの奥さんは○○科の病院へ通っている」
  これくらいならまだ良いほうである。
 「○○さんの旦那は毎晩酒飲んでタクシーで帰ってくる」「○○さんの旦那は麻雀でい
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つも負けているらしい」「○○さん宅の贈り物が多い」「○○さんの旦那は今度○○支店
へ転勤だそうよ」
  こうなると風評被害である。

  修三はそういう意味で社宅には入りたくなかった。子供のときの鴻之舞鉱山の社宅生
活の息苦しさを見にしみて感じていたからである。
  貧乏人には助け合いが出来て良いのだが、ガラス張りで筒抜けで、プライバシーが
まったくなかった。
  妻の須賀子と結婚した時は入社2年目で当然社宅の入居資格はなくアパートを借り
た。しかし、1年もしないうちに先輩の厚意かもしれないが、「社宅が空いているから」と
社宅に入居させられた。
  妻の須賀子は嫌がったが仕方がなかった。
  社宅に住むと、修三は会社の行き帰りや土日に会社の人間に出会う。須賀子は日中
買い物や銀行に行く時など四六時中先輩方の奥さんや子供に出会う。
  修三は入社したばかりで、2人は社宅の社員の名前が分からなかった。「挨拶が少な
い」と言われても当然である。それでなくとも2人は元々無愛想である。
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  社宅でも町内会の行事を仕切る奥さんがいたり、会社ではうだつの上がらない年配の
平社員が偉そうに掃除や除雪を仕切っており、若い修三と須賀子は社宅生活にうんざり
しいた。
  幸い、社宅に入って1年もしないうちに、須賀子の母親が紋別の下宿を畳んで札幌西
区に家を新築したから社宅生活は短期間で終った。
  後年、石油危機で日本全国のサラリーマンの所得が急上昇した時に、札幌でもあちこ
ちで宅地造成が行われ、北国商事鰍ノも分譲の案内が数多く来た。自宅を持っていな
い40歳前後の課長や係長が中心となり、大勢で同じ分譲地を購入した。
 (仲間と一緒に買って心強いかもしれないが、死ぬまで同じ顔ぶれで、しかも一生上
下関係が続くのに・・・・・・この人達は群れて住まないと不安なんだ・・・・・・俺なら自由
の方が良いな)
  若い修三はその時そう思った。還暦をとうに過ぎた今でもそう思っている。

 「○○がOB会に入らないそうだ・・・・・・」
  これまた退職した暇人の格好の話題である。わざわざ後輩の会社まで来て現役のみ
んなに言い触らす。
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第12話 マルタ島の猫 その3 ★★★



































































































































































































































  

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