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小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
 (そんな奴、犬や猫を飼う権利はない。犬や猫は人間のおもちゃじゃないんだ、れっきと
した生き物だぞ)

  そういった修三の思いとは裏腹に日本のペットブームは異常なまでに加熱してきてい
る。
  (財)日本動物愛護協会 理事・事務局長 会田保彦氏は、「ペット人口の増加の是
非」というコラムの中でこう述べている。(HP「ロングライフ住宅 ヘーベルハウス ペッ
トと暮らす家ペット研究会 ペットに関する研究会 会田先生のコラム」)
 「(前略)ペットフード工業会の調査結果によりますと、2003年における国内の飼い犬
と飼い猫は推計1、922万頭で、(中略)(作者注:その理由として)おそらく少子化時代
の反動として犬・猫を飼う夫婦やパートナーとして求める中年独身者が増え、また一部
の分譲マンションが条件付で飼育許可を認めて売上を伸ばす等の社会的な背景があっ
たかとは思われます。
  しかし、是非はともかくとして、人と動物に関わる世界に身をおく立場からは、何故か
アンバランスを感じて一抹の不安を禁じえません。(中略)わが国ではいまだブームに
悪乗りした安易な考えが横行して動物を正しく理解しないまま、途中で飼育放棄を余儀
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なくされるケースが一向に減らないからです。(後略)」
  まことに当を得た指摘と思われる。

 「猫が幸せに暮らしているところは、日本では沖縄、外国ではマルタ島ですね。そこに
住んでいる猫は本当に幸せですよ、住民に愛されていますからね」
  猫の写真で有名な新美敬子氏が1年ほど前、NHKFM「日曜喫茶室」でしみじみと話
していた。
  修三は3年前(2003年)、そんな事も知らず妻と次女の3人で沖縄本島を旅行してき
た。レンタカー付き3泊4日の旅で、美ら海水族館、熱帯ドリームセンター、ビオスの丘、
首里城公園と名所を回って観光し、同時にソーキそばやゴーヤチャンプルなど沖縄の味
覚を楽しんで来た。
  しかし、その時は本島の観光地だけ歩いたせいか、記憶を辿っても猫の姿を見た記憶
がなかった。
 (どうやら島巡りをしなければ、幸せな猫達を観られないのかもしれない)
  修三はそう思った。
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  また、4年前(2003年)、修三はマルタ島に行っていた。
  新美敬子氏の話を聞いてから、修三は改めてその時のアルバムを開くと、その時の
思い出が蘇ってきた。
  修三達は会社の海外研修でモロッコのカリ鉱山を見学しての帰り道、マルタ島へ寄っ
たのである。
  モロッコからマルタ島へは直行便がなく、ローマ経由で入ったが、「地中海の要塞」と
呼ばれるマルタ島は噂にたがわずきれいな静かな島であった。
  港の傍の市場マルサシュマーケットには、果物・魚・豆類の出店が立ち並び、その通
り道には何匹もの猫がわが道のように悠然と歩いていた。
  ふと港に眼をやると、係留されている小型の漁船に三毛猫が寝そべり、波に揺られな
がら日向ぼっこをしていた。またモタデル大聖堂では陽が当たる石の階段にキツネ色の
猫が寝転んでゆったりと毛づくろいをしていた。
  マルタ島は島全体が大きな岩で出来ており、地中海の天然の要塞として有史以来多
くの国々に支配され続けた。島の中央には要塞の壁を作るために岩を切り出したとてつ
もなく大きな穴がある。4階建てのビルがいくつも入ると思われる大きくて深い穴の底に
どこから下りて行ったのか数匹の猫が戯れていた。
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  マルタ島の猫は、十字軍や大航海時代に船に乗ってやってきた猫の末裔らしい。それ
が天敵のいない島の環境と優しい人間に囲まれ、次第に繁殖し、今では猫の数が人口
(約40万人)の2倍になっているという。
  旅行アルバムの中に猫の写真が数枚あった。どの猫も穏やかで優しく満ち足りた顔を
している。人間やカメラをまったく意識していない。
  マルタ島の猫は人間のためではなく、自分自身のために生きている。猫があたかもこ
の島の住民であるかのような錯覚に陥るくらいである。
  その前の訪問地モロッコの写真にも黒い猫が1匹写っているが、その顔は神経質で
警戒心旺盛で撮影者を睨みつけている。
  修三はキリスト教とイスラム教の違いではなく、人間と猫の関係を象徴しているように
感じた。

  余談になるが、後日(2008年11月11日)NHKBS「世界ふれあい街歩き」でマレー
シア、ボルネオ島、猫の街クチンを放送していた。
  クチンは19〜20世紀に白人の王様が支配するサワラク王国の首都だったところで、
首都の名前クチンはマレーシア語で「猫」を意味するらしい。
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  番組はサワラク川に沿って街の中を散歩していたが、公園や交差点のタワーには猫
の彫刻が飾ってある。またマンホールの蓋も猫の形が刻印されている。猫はこの街のシ
ンボルとなっているようだ。
  期待して見ていたが、なかなか猫は出てこない。番組の終わり頃、ようやく飼い猫が6
匹ほど写ったが、どの飼い猫もどの飼い主もまことに穏やかな顔をしていた。
  この後、ネットでクチン旅行記を読んだが、この街の由来は港を意味する中国語から
来ているとか、この地に生息する木の実の形が猫の目に似ているからとか、諸説あるよ
うだ。旅行者もあまり猫に会わなかったし、たまに見かけた野良猫はやはりくたびれてい
たそうである。

  日本には猫に関わる言葉が数多くある。
  猫に鰹節、猫に小判、猫にマタタビ、猫の手も借りたい、猫もしゃくしも、猫をかぶる、
猫かぶり、猫舌、猫背、猫っ毛、猫なで声、猫の額、猫の目、猫糞(ねこばば)、猫跨ぎ、
猫耳、猫目石、などなど、どちらかというと、みみっちくて陰気で暗い。
 これに対して犬に関わる言葉は、
  権力の犬、犬たで、犬つげ、犬侍、犬死、犬も歩けば棒に当たる、犬も食わない、犬食
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い、犬釘、犬ころ、犬畜生、などなど、見下げる対象か無意味なものが多い。

  人間も酒飲みの生態から猫族と犬族に分けられる。
  飲み屋に1人で行き、カウンターの端に腰掛け、1人で手酌し黙々と飲んでいるのが
猫族、 飲み屋に大勢で出かけ、店の真ん中に陣取り、酒を注ぎあい、大声で騒いでいる
のが犬族と言われている。
  修三は前者の猫族である。
  猫族は陰気で暗い。群れに入らず小声で話す。自由を愛し、群れでは動かず1人で行
動する。人ごみやお祭りが嫌いである。自分の物差しや価値観を判断基準としており、
大勢に流されない。強い者には抵抗し、弱い物に優しい。権力に迎合しない。愛想が悪
くゴマすりしない。
  犬族は陽気で明るい。すぐに群れて大声を立てる。1人では動かず集団で行動する。
人込みやお祭りが大好きである。大勢の動きを優先し、自己の判断を持たないか、あっ
ても顔に出さない。
  みんなで通れば怖くないという意識、長い物に巻かれ権力に迎合しやすい。愛想が良
くゴマすりが上手い。強い者には弱く、弱いものに強い。
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第12話 マルタ島の猫 その2 ★★










          






































































































     

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