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小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー

るで修三の練習のために買ったような高い車となった。
  これに比べて妻の須賀子の車の事故はまるで少なかった。須賀子は修三の免許取
得後修三に勧められ、翌年同じ自動車学校へ通った。もともと運動が得意な須賀子は
仮免も1回落ちただけで、支払った講習料も修三よりもはるかに少なかった、
  今でも修三が運転すると助手席の須賀子に時々注意される。
 「お父さん、ほれ、左から自転車が来ているよ」

  修三のゴルフでの失敗談は数多くある。
  最初の失敗はゴルフに行く時、ゴルフシューズを忘れて行った事である。これはその
後も度々あって、その度に道すがらスポーツ店で買ったり、ゴルフ場で買い求めた。この
ため修三のゴルフシューズは4足にもなっていた。いずれも最低価格の靴を買ったから
ろくな物はない。
 もう一つはゴルフ場に貴重品を預けたまま帰って来た事である。土屋課長に送り迎えを
してもらい、北広島のゴルフ場へ行った時のことである。ゴルフの帰り道、修三はくたび
れて車の中で相変わらず眠っていた。ふと目を覚ました時、車は高速の降り口新川に近
づいていた。何気なくズボンのポケットに手を入れると、貴重品預かりの鍵があるではな
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いか・・・・・・
 「あっ、やった」
 「部長、どうしました?」
 「手提げカバンをゴルフ場に預けたままだ」
 「それじゃあ、戻りましょう?」
 「いいよ、後で取りに行くよ」
  とは言ったものの、修三は疲れていてそんな元気はない、妻に頼むしかない。
 「明日出張する飛行機の切符が入っているのでしょう?」
 「そうだけど・・・・・・申し訳ないよ」
 「いいですよ、戻ります」
  かくして、土屋課長は今来た道を取って返した。運転していた土屋課長も疲れていた
に違いない。修三は自分の不注意で土屋課長に迷惑を掛けたと大いに反省した。

  もう一つはゴルフの雨天決行を巡っての話である。
  ある年の6月、年に一度業界が集まるゴルフのコンペがあった。総勢7組、30人足ら
ずの中コンペである。この日は業界の北海道支店の人達だけでなく、暑い東京の夏を逃
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れてわざわざ札幌へやって来た東京本社の人達もいた。
  しかし、当日はあいにくの土砂降りの雨だった。雷注意報も出ていた。
 「ひどい雨だ、それに寒いよ。こんな日にはやりたくないね」
  修三は相変わらず自宅に迎えに来てくれる土屋課長にぶつぶつ言っている。高速か
ら見上げる空は真っ暗であった。
  午前7時、島松のゴルフ場の駐車場に到着して周囲を見回すと、大降りの雨でプレイ
を諦め帰る客もいる。ハウスの中に入るとコンペの参加者が外を見て眉をひそめていた。
 「高城支店長、おはようございます。ひどい雨ですね、どうします?」
 「北山部長、おはようございます。そうですね、皆さんのご意見をお聞きしてみないと
・・・・・・」
  四星化学鰍フ高城支店長はこの親睦会の代表で、 四星化学竃k海道支店はこのコ
ンペ実施の幹事会社でもある。
 「高城支店長、雷注意報も出ていますから止めた方が良いですよ」
 「北山部長、そうは言っても、せっかく皆さんがお集まりになったのですから・・・・・・」
  メンバーの中でちばん年長で温厚な高城支店長は修三の意見にはまったく動じない。
  入口の三角屋根から落ちる雨は滝のように音を立てて流れ、ロビーの窓ガラスに当
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たって砕けていた。
  参加者の意見は決行賛成が約6割、即中止が4割で決行される事になった。みんな
は完全武装してスタート地点へ向かった。
 「何もこんな土砂降りの日にやらなくても良いのに」
  あくまでもやりたくない修三はわざとみんなに聴こえるように話しながらいやいやみん
なの後を追った。
  この時の修三のスコアは最低、気持ちも最低だった。
  あの時、高城支店長は東京から北海道のゴルフを楽しみに来られた方々の事を考え
ていた。
  北海道勤務の人は今日止めても後日晴れた日にまた出来る。しかし、東京勤務の人
は北海道に来たら天候を選んでゴルフを出来ないのだ。今止めたら今度何時出来るか
分からない。
  東京本社勤務の経験がある高城支店長は皆さんの気持ちが痛いほど分かっていたに
違いない。東京人のゴルフは朝暗いうちに起きて出かけ夜遅くなって帰ってくるらしい。
1日仕事である。
  道外でゴルフをした事がない修三はそんな事情を知らなかった。
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 (高城支店長に悪い事をした。素直について行けば良かった)
  修三は今でもそう思っている。

  もっとも嫌な事はゴルフを借りたゴマすりであった。
 「社長、ここにボールがあります」
  社長がショットするやいなや担当役員がいち早く駆け出し、ラフに落ちたボールを拾い
上げフェアウェイに移し変える。またグリーンでは、カップまで1m以上ある社長のボール
を担当役員が「OK」と言ってそそくさと取り上げ、社長にお返しする。
  修三は目を疑った。入社以来サラリーマンの鏡として尊敬してきた、仕事も切れ格好
も良かった上司が、ゴルフ場ではちょろちょろと走り回る。
 (「上司には正確に報告しろ、さもないと私は判断を間違う」と部下に常々言っていた上
司がそこまでやるか?) 
  修三はそう思った。

 「これで嫌なゴルフとはおさらばだ」
  5年前、北国商事鰍勧奨退職した時、修三は車庫の上に上げてあったゴルフバック
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とゴルフシューズを処分した。
 (このゴルフバックとゴルフシューズのせいで、どれだけ苦労して、いじけて、他人の顰蹙(ひんしゅく)を買った事か?)
  修三がこれまでゴルフをやった回数は苫小牧時代の5年間で20回、農業資材部長時代の4年間で約80回、合わせて100回である。
 (ゴルフで楽しい事は何もなかった。100回汗をかいて、100回恥をかいた) 
  ゴルフは修三の35年にわたるサラリーマン生活の中でいちばん嫌な仕事だった。これがなければ後半のサラリーマン生活はまだ楽しかったに違いない。








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第11話 俺ぁこんなゴルフ嫌だその4★★


































































































































































































































  

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