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ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
 (やはりゴルフは俺には無理だ)
  修三はこの時からゴルフは自分に向かない、出来ないと決めていた。だから、苫小牧
支店に転勤になりゴルフ道具を揃えても、若い松木君にゴルフ練習場に連れて行かれ
てもゴルフを始める気はなかった。したがって、2ヶ月8回で終るコースが4ヶ月もかかり、
終了した時はすでに8月になっていた。修三はそれでもデビューする気にはならなかっ
た。

  広田支店長が出張したある日の午前10時頃、古い取引先の林会長が事務所にやっ
て来た。担当の古田営業課長が林会長に修三の練習場通いの話をする。
 「そりゃ良い事だ、今日は天気も良いし、ひとつ北山次長のデビュー戦をしましょうか?
古田営業課長、すまないがひとつゴルフ場の予約をしてください。もう一方は北国飼料
鰍フ渡辺工場長が良いでしょう」
  林会長の音頭で話がどんどん進んだ。事務所からいちばん近いゴルフ場へは30分
で到着する。午後12時10分スタートである。修三は慌しく会社近くのマンションに戻り
支度を整えゴルフ場へ向った。他の3人はすでに到着していた。
 「北山次長もいよいよゴルフ始めるんですってね、よろしくお願いします」
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 「渡辺工場長、ご迷惑をおかけしますが、ひとつよろしくご指導願います」
  渡辺工場長は現役時代北国商事鰍フ管理部門に在籍していた事があり、その時酒を
飲んだり、麻雀をさせていただいた大先輩である。修三が運動嫌いな事も良く知ってい
て、その修三のデビュー戦と聞いて喜んで駆けつけた。
 「お姉さん、この方、今日が筆下ろしだから緊張しているの、その道の先輩として優しく
面倒見て上げてね」
  林会長がキャディさんに声を掛ける。キャディさんの中にはへたなプレイヤーを「手が
かかる」と嫌う人がいる。人生の達人である林会長は神経質な北山次長の性格に配慮
して、キャディさんにユーモアを混ぜて優しく依頼する。
  修三の一振り目は見事に外れ、20メートルほどのラフの上を転がる。林会長は修三
と一緒に歩きながらアドバイスをする。
 「何も慌ててプレイする事はないのですよ、そうするとストレスが溜まりますから・・・・・・
ストレスを発散するために来ているのですから、他人のことは気にせず、自分のペース
でやれば良いのです」
 巨体でどっしりと太り、最近脚の調子が悪い林会長はゆっくりと象さんのように歩く。後
ろの組みが迫って来ていてもまったく動じない。
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  優しいパートナーとキャディさんに恵まれ、修三は緊張する事なく気持ち良く回る事が
出来た。ただ皆さんの足手まといにならないように気をつけた。修三に景色を見る余裕は
まったくなく、ただひたすら地面だけを見ながら駆け回った。ふだんほとんど歩いていな
い足腰が悲鳴を上げていた。
  修三のスコアは160を超え、途中でカウントするのを止めた。修三は運動音痴とは言
えあまりにもひどい結果に穴があったら入りたい心境であった。
 「良く頑張りました、敢闘賞ものです」
 「初めてにしては上出来です」
  年配のお2人は修三が落胆しないよう修三を褒め称える。
 「お世話になりました、これに懲りませずにまた誘ってください、成績はともかく皆さん
のお陰で楽しく回ることが出来ました。ありがとうございました」
  1時間後、修三は1人暮らしのマンションに戻り、身体のあちこちにサロンパスを貼っ
てから畳の上に寝そべった。修三は初めてのゴルフデビューに興奮していた。
 (今日は広田支店長がいなかったな。ひょっとして今日のデビューも広田支店長の差
し金か?してやられたな)
  修三はパートナーの3人の好意には感謝しながらもそう思った。
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 (この成績では人様とゴルフは出来ない。この先こんな状態でもゴルフをやらなきゃな
らないのだろうか?)
  修三はこの夜は疲れすぎてほとんど眠れなかつた。
  それでも苫小牧時代は良かった。「今度の次長はゴルフをしない」と知られていたか
ら、余程の事がなければ誘われる事はなかったからである。天気の良い日に好きな人と
だけ気楽にゴルフを出来たからである。
  そんな修三でも、心身ともにすこぶる快調で、気の置けない仲間とゴルフをした時は
良い成績が出た。その時のスコアは111点であり、他人からすると笑われる成績だが、
これが修三の生涯のベストスコアとなった。
  修三は苫小牧には支店長時代を含めて5年間勤務したが、ゴルフの総回数は20回
である。この回数は北国商事鰍ナゴルフをすると豪語する人の1年分にもはるかに満た
ない回数であった。

 「北山部長のゴルフとかけて何と解く?」
 「屠場へ入る牛と解く」
 「その心は?」
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 「常に後ずさりする」
  平成6(1994)年以降、こんな話が北国商事鰍フ役員や幹部社員の酒の席の話題
となっていた。修三は平成6年に本社の農業資材部長に転勤になった。着任早々お取
引先とのゴルフが設定された。
 「北山部長、四星化成鰍フ社長が来札してうちの担当役員とゴルフをします。ついては
北山部長も参加してください」
 「土屋課長、何も下手な私がやらなくても、ゴルフが上手い人は他にも大勢いるだろう
?」
 「いますが、担当部長がいないと駄目なのです。相手の担当部長も出るのですから」
 「そんな?」
 「上手くても下手でも良いんです。そこに参加する事で仕事が円滑に進むのです」
  しっかり者の土屋課長は北山部長のゴルフの腕前を知ってはいるが、自分の仕事の
立場上そんな事は言っておられない。
 「どうしてもか?」
 「今度の金曜日、朝6時にご自宅にお迎えに上がります」
 「むむむ・・・・・・」 
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  修三も、土屋課長にそこまで言われると拒否出来ない。明日からすぐに「奇人変人」部
長になってしまう。それでなくとも管理部門の経験しかない修三はこの営業のポジション
に就いてから万事土屋課長のお世話になっているからである。

  修三にとってゴルフは拷問に近い。
  まず朝起きが苦手である。修三は生まれつき宵っ張りの朝寝坊である。ゴルフは朝早
く、時には暗いうちに出発しなければならない。朝のお迎えに寝坊してはいけないと目覚
まし時計をセットするが、耳元でカチコチするともうこれだけで眠れない。ゴルフ好きの人
は翌日が楽しみで眠れないと言うが、修三の場合は翌日が心配で眠れないのである。
  ようやくうとうとしかけた頃目覚まし時計が鳴る。しぶしぶ起きて煙草を何本も吸うが寝
不足の神体はなかなか目覚めない。この状態で食パンを一枚食べるが、いつもよりかな
り早い朝食はお腹の調子を狂わせる。特にゴルフの前日に会食があると、胃腸の弱い
修三は翌日下痢気味になりそれこそ大変である。
  ゴルフ場に到着すると、お客様と役員の到着をチェックし、朝食を摂っていない方をレ
ストランにご案内する。スタート地点と時間を再確認する。
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第11話 俺ぁこんなゴルフ嫌だ その2 ★★










          






































































































     

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