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デジカメ千夜一夜

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おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー

  ガイドはこういうお客も経験していると見え、一行に断ってから宮殿の右手の小路に修
三を先導する。 一軒のレストランに入るとガイドはすでにお馴染みらしく従業員に声をか
ける。
 「トイレは地下よ」
  ガイドは修三を突き放す。地下の立派な便器に腰を掛けるが、西洋人の足が長いの
か修三の両足が宙で泳ぎ力が入らない。ようやく用を済ませ水を流そうとするとそのボタ
ンが見当たらない。
 「みんなが待っている」
  修三は慌てる。途方にくれて右手の大きなプレートに触ると水が流れ出した。水を流す
プレート自体がトイレの装飾になっていたのだ。
 (さすがフランス人)
  修三が感心してトイレを出ると、目の付くところに小皿が置いてある。修三は小銭を置
き、ガイドとともに宮殿の入口に戻る。
  ブルボン王朝のルイ十四世が造ったと言う宮殿は、途方もなく大きく豪華絢爛で、一
行は目を見張った。
  広い大きな庭の造作も見事で、手入れが良く行き届いている。一回りするだけで1時
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間以上かかると言う。
 (ここで毎晩貴族の舞踏会が開かれ、踊りつかれた男女が庭に涼みに出ていたのか?
すごい世界だ) 庭を目の前にした修三は何かの映画で見た貴族の舞踏会のシーンを
思い出す。
  旅行代理店の旗を一際高く上げガイドが一行に話しかける。
 「みなさん、先ほどこの宮殿内にはトイレが一つしかない、と言いましたよね。一つでは
足りるわけがありません。それではどうしたのでしょうか?」
 「・・・・・・?」
 「この庭のあちこちがトイレになったのです」
 「へえー、汚いねぇ。後から来た人はふんずけるんじゃない?」
  ガイドの話に一行は声を上げる。
 「ですから、パリでは落下傘スカートとハイヒールと香水が生まれたのです」
  この頃、バリの都市生活者は4、5階建てのアパートに住んでいたが、トイレはなかっ
たと言う。各家々はオマルに溜まった糞尿を毎朝窓から外へ捨てていた。それを拾って
歩く清掃業があった。上下水道が完備し清潔だったローマとは大違いである。
  パリ市民は伝統的に衛生観念が薄いのか、今でも犬を連れた貴婦人は犬の糞を拾っ
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て歩かない。ど派手なヘルメットと制服を着たお兄さんがオートバイに乗って、犬猫の糞
を拾って歩いている。パリは汚い町であった。
  かくして2回目の海外旅行は旅行日数の10勝1敗と大過なく終わった。

  いちばんひどかったのは3回目の旅行で、5勝7敗であった。1994年の海外肥料事
情視察で、ヨルダンとドイツへ行った時の事である。
  ヨルダンのアンマンとアカバで3日間国営肥料工場を見学した一行は、最後の夜をア
ンマン市内の「台湾」と言う名のレストランで過ごした。
  台湾料理とは名ばかりで、経営者は韓国人、ウェーターはスーツを着た黒ひげのヨル
ダン人、料理は無国籍料理に近かった。しかし、ヨルダンはイスラム教国であるが、外国
人の飲酒については寛大で飲酒が認められていた。
  肥料工場視察をアテンドしてくれた商事会社、化学会社の現地駐在員も一緒になり、
会食は多いに盛り上がった。その中に修三の大学の先輩もいて、2人は故郷札幌の思
い出を語り、大量の酒を飲んだ。
  翌朝はヨーロッパに向う事になっており、出発は午前8時であった。修三は旅の疲れと
大酒のせいでぐっすりと寝込んだ。
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  真夜中の2時、修三は猛烈な腹痛に襲われ目を覚ました。
  慌ててトイレに駆け込む。パンツを脱ぐや否や水のようなうんちがシャーシゃーと流れ
る。お腹が絞られるように痛い。
 (どうしたんだ?飲みすぎか?)
  お腹の痛さが酔いを上回る。だんだん酔いが覚めてくる。そのうち寒気がしてくる。
 (そうだ、酔って、風呂に入って、熱さのあまり冷房を切るのを忘れたんだ)
  水のような下痢は止まらず、便器を離れる事が出来ない。痛みも続いている。修三は
気を紛らわせるために、トランクに入れていた文庫本を読む事にした。
  しかし、どうやって取りに行くかが問題だった。やむなくトイレットペーパーを何枚も重
ね、左手で後を押さえながら寝室のトランクまで取りに行った。
  修三は便器に座ったまま本を読み続ける。ろくに頭に入らぬまま大半を読み終えた
頃、窓の外が明るくなってきた。午前6時である。
  痛みが減り、出る物が出て、ようやく便器を離れる事にした。
  紙おむつのようにパンツの後方に大量のティッシュペーパーを入れ、慌しくひげを剃
り、トランクを片付け出発の準備をする。トランクを持ち上げようとするとうんちが出そう
な気がする。
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  当然ながら食欲はなく朝食は取らない。取ったらまた出そうな気がする。ようやくアン
マン空港に着くがすぐさま便意を催す。一行に断りを入れトイレに駆け込む。便の色がだ
んだん薄くなってきた。
  終わって目の前を見ると、水道の蛇口があり50cmほどのホースがぶら下がってい
る。トイレットペーパーはない。
 (ウォッシュレットだ、手で洗う便所だ。だけど、洗った後手は何で拭くのか?ズボンや
シャッで拭くのか?)
  修三は一瞬みんなが待っている事を忘れた。
  ヨーロッパ、ドイツのフランクフルトまでの6時間、修三は機内で眠りに眠った。

  この旅行はその後もずっと下痢が止まらなかった。
 「これを飲めばたちどころに治る、肛門に鍵が掛かるよ」
  取引先の全能潟fュッセルドルフ駐在員が医者の薬をくれたが、これまでのストレス
も溜まったのか、食事もパンと紅茶だけにしても全く治らなかった。当然視察も場所に
よっては休んだりしていた。
  旅行も後半に差し掛かったパリでの事。この頃、ハードな日程と酒とオリーブオイルの
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せいか、修三の他にも数人が体調を壊していた。
  一行はパリの夜の観光「ムーランルージュ」に出かける事になった。もちろんお腹を壊
した修三他数人が辞退した。辞退した数人は準備良く缶詰のお粥と梅干を持ってきてい
た。かと言って修三にまでは回ってこない。
  修三はホテルの中のレストランでパンと紅茶だけ頼みたかったが、英語が分からない
振りをするフランス人が多いため、ホテル内で食事をするのをためらっていた。
 「ホテルのすぐ近くに鉄道のエッフェルト塔駅があります。そこのキヨスクに行けばサン
ドイッチやジュースや牛乳を売っていますよ」
  修三の不安を聞いた親切な添乗員はキヨスクの存在を教えてくれた。キヨスクはホテ
ルを出て5、6分で着いた。
  なるほど帰宅時間と見え、独身者が夕食を買っていた。時々日本語が聞こえる。数人
の若い日本女性がフランスパンのサンドイッチとジュースを買っている。節約旅行で近く
のホテルから買出しに来たようだ。
  修三もサンドイッチとジュースを買い求め、来た道を戻る。来る時は中心地に向ってお
り、行く先がネオンなどで明るかったが、帰りは逆でホテルの方向はだんだん暗くなって
くる。あたりを見ると日本のように街灯は多くなく、女の一人歩きには物騒なほどである。
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第9話 うんこたれ その3 ★★★


































































































































































































































  

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