きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー

  ちょうどその頃四国四十八箇所巡りをした後輩が「四国四十八箇所お遍路日記」をパ
ソコンで書き、自分で印刷し製本して届けてくれた。
  修三はこれに刺激され、早速「おじさんの料理日記」を作ってみる事にした。幸いパソ
コンのファイルは5年間で50回を超えていた。
  そのうちの50回分をA6判に編集しなおし、両面カラー印刷し製本し、10部ほど知人
と友人に配った。すぐに仲間内で話題となり、希望者が続出し、さらに20部ほど増刷し
た。

  ところが、「おじさんの料理日記」を読んだ人達の評判は賛否両論だった。
 「いろいろな皿を持っている」
 「写真がきれいで思わず食べたくなる」
 「料理よりも日記が面白い」
 「これを見るとかんたんに出来そう」
 「ケチャップ料理が多い」
 「カレー料理が多い」
 「レシピが書いていない」
157


 「手間・暇・金がかかり過ぎる」
 「誰にでもかんたんに作れる料理がない」
 「かみさんに見せられない。『あんたもやりなさい』と言われる」
 「実際に試食していないので、本当に美味しいかどうか分からない」
  などなど言いたい放題である。
 「おじさんの料理は基本的におばさんの領分を侵さない事をモットーにしています。し
たがって当然材料費や手間がかかる料理が多くなります」
  日記の後書きにこのように書いてあるが、そんなところは読まず、すぐに見た目だけ
であれこれ言う。
  友人達は修三の料理が想像以上にレパートリーが広く、まあまあ本格的で、食器の
豊富さや飾り付けが上手いのに仰天したらしい。
  そして悪い事にこれは修三の単なる道楽と見なさず、自分の家の料理と比較してしま
うらしい。家庭の主婦はその他の家事に追われて料理にこれほと゜の時間とお金はか
けられないのに・・・・・・
  どうやら人間は自分の手の届かない事には妬みを持ち、批評も冷酷になるもののよ
うである。
158


  これらの批評に頭に来た修三は、それなら誰にでも作れる料理(?)をと、「おじさん
のかんたん酒の肴」を作る事にした。
  今年の正月休みに毎日2、3品ずつ作っては妻の須賀子に試食させたから、さすが
の須賀子も「私の正月料理も少しは食べてくれないと・・・・・・」と怒り出す始末。
  1ヵ月かかってようやく50種類の酒の肴を作り、写真と文章が完成した。もちろん、
修三の大好きな卵と魚の缶詰を使った肴も数多く登場している。
  しかし、もらった友人達はこのような作者の苦労も知らず、
 「これなら俺でも出来そう」
 「俺も作って見たが美味しかった」
 「かみさんも作って見た」
  などなど今度はみんなの評判も上々である。

  去る5月11日、十勝郡広尾町のとある居酒屋で喪服姿の男達が10人ほど酒を飲ん
でいた。彼らは地元の有力荷役会社の社長の葬儀に参列した関係者で、通夜の後遅
い夕食を共にしていたのである。
 「北山総務部長のベーコンのはりはり鍋ね、あれね、プレスハムとキャベツとコンソメ
159


でやったら、もそもそして美味しくなかったさ」
  北山修三の左側から酒を注ぎに来た東栄荷役鰍フ島崎専務が話しかける。
  東栄荷役鰍ヘ北国農材鰍フ協力会社で、苫小牧に本社がある。40代の島崎専務
は札幌から苫小牧に単身赴任している。
  島崎専務は修三の「おじさんの料理日記」を参考にしてどうやら<はりはり鍋>を作っ
たらしい。
 「あれは鯨の脂身の代わりにベーコンを使ってみたのさ。プレスハムだと脂気がなく
て駄目でないかい?それにはりはり鍋は京野菜の水菜の事だから、水菜を使わなきゃ
はりはり鍋と言わないのさ」
  修三が言葉を返す。
  鯨のはりはり鍋は、鯨が安かった頃北九州で京野菜の水菜と出会い、庶民に普及
した鍋である。しかし今日では鯨が高級品となり庶民の鍋でなくなっている。
  したがって鯨肉の代わりに牛肉や油揚げを使うはりはり鍋が増えてきている。修三
も特売のベーコンで代用してみたが、これがなかなかいけるのである。
  またなかなか手に入らなかった京野菜の水菜も、最近では北海道でも生産されるよ
うになり、今ではかんたんに手に入るようになった。
160


 「何々?」
  今度は修三の右に座っている、取引先の全能且D幌支店の加山課長が2人の会話
に割って入る。彼は札幌へ単身赴任して2年半になる。彼も40代である。
 「北山総務部長は料理が趣味でさ、50種類もの料理をカラー写真入りで小冊子にま
とめたのさ。それをいただいた私は手元にあったプレスハムではりはり鍋を作ってみた
んですよ」
  島崎専務が加山課長に解説する。
 「そんな良い物があったんですか?北山総務部長、それ私も一冊欲しいな・・・・・・今
となってはもう遅いか?」
  加山課長は独り言のように呟く。
 「分かりました、まだ在庫がありますから差し上げますよ。でも、後の発言は来年は
人事異動で札幌にいなくなるという意味ですか?」
 「そんな訳ではないのですが・・・・・・」
  加山課長は頭をかきかき大慌てで訂正する。3人の会話に聞き耳を立てていた周
囲の人々が大笑いをする。
  修三の対面に座っている月通轄L尾支店の丸子支店長は地元の漁師の息子で、
161


修三と魚談議に花が咲く。
 「丸子支店長、最近広尾周辺の市町村が共同でマコガレイを養殖しているって新聞
に出ていたよ」
 「マコガレイ?それは松川ガレイの事だと思いますよ」
 「そうだ、マコガレイは函館の話だった」
  修三は酔って、松川ガレイとマコガレイを混同していた。
  松川ガレイは日高方面で取れる大型のカレイで、別名座布団ガレイとか鷹の羽ガレ
イとも言う。身が柔らかくて美味しいので、乱獲され、形の大きいものはめったに獲れな
くなった。それで養殖が始まったのてある。
  修三が魚に五月蝿いと見た丸子支店長は話を続ける。
 「ところで鮫ガレイの切込みを食べた事がありますか?」
 「ありませんね。鮫ガレイはスーパーで冷凍物の切り身が時々売っていますね?煮
物にすると肉みたいに身がしっかりとしていて、かつすごく脂っこい奴?」
 「そう、この辺でたまに獲れるんですよ。この皮を剥いて切込みにした物です。日本
酒に最高ですよ」
 「是非食べてみたいですね」
162

          

タイトルイメージ   タイトルイメージ 本文へジャンプ




第7話 男の料理 その3 ★★★


































































































































































































































  

前のページへ 次のページへ


トップページへ戻る