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デジカメ あしたのジョー

ださい。
  高井さんがハガキの案内状を出す。車の中でよく見ると、主催者は札幌ばらの会で、
会長は高井良介とあった。
(札幌ばらの会の会長さんか?どおりでそこいらのバラとバラが違うわけだ。他人を寄
せ付けない、神経質すぎるほどの管理であのような素晴らしい、気品のあるバラが生ま
れるのだ)
  修三は納得した。

  興奮が冷めやらぬまま、その足で山中先生のバラを見に行った。
  山中先生が丁度自宅から出てきたところである。頭のてっぺんから足元まで完全重
装備である。
 「先生はどのバラがお好きですか?」
  「これさ」
  先生は花びらの縁がほんのり桃色がかった白いバラを指差す。
 「可愛いですね」
 「バラもおぼこが一番さ、咲いてしまっちゃお終いよ」 
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 農作業で日焼けした黒い顔に白い歯を見せて助平そうにニヤリと笑う。
 「写して差し上げますよ」
 「ネガを貸してくれれば病院で焼いて額に入れるよ。私の病院の待合室にはいろいろ
な人の写真が飾ってあるんだ」
 (どうやら先生はデジカメの理屈をご存知ないようだ)
 「デジカメなんで明日お届けしますよ。ところで先生は札幌ばらの会の高井会長をご
存知ですか?この下の方にご自宅があり、素晴らしいバラを咲かせています」
  修三は高井さんから貰ったばかりの切花展の案内状を見せる。
  先生は案内状を見、一瞬何事か考えている様子をしていたが、
 「そうかい」
  と言ってそのまま畑の中へ入っていった。
  修三はその後先生のお好みのバラを何枚か写してその日の撮影を終えた。

  翌朝、またまた高井家を訪れる。
 「北山さん、昨日はびっくりしましたよ」
 高井さんが仕事の手を休めて修三に話しかける。
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 「どうかしました?」
 「昨日山中皮膚科に行ったら、カルテに『バラの先生』って書いてあるのさ。あなた先
生に何か話した?」
 「実は昨日あれから山中先生のバラを写しに行って、先生に会ったものですから切花
展の案内状を見せたんです」
 (山中先生のイタズラだ。そういえば、高井さんの話をした時、先生は何事か考えてい
たっけ・・・住所を見て「自分の患者の高井さんではないのか?」と考えていたんだ)
 「そうですか?どおりで・・・」
 (友達の友達はみな友達だ)
  修三は心の中で快哉を叫んでいた。
 「ところで昨年頂いたバラの写真ですが、切花展に飾っても良いですか?」
  几帳面な高井さんは著作権者である修三の許可を求めてくる。
 「どうぞどうぞ、こちらこそ光栄です」
 修三はにっこり笑う。
 「札幌ばらの会」が主催する切花展は、年2回、初夏と秋にサツポロファクトリーで開
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催されている。
  妻の須賀子と出かけて見ると、会場は吹き抜けのあるアトリウム公園右手の2階ロ
ビーであった。
  入口には修三が以前撮影して贈呈した写真が飾ってあった。中へ入ると30名ほど
の会員たちの自信作が誇らしげに展示してある。
  一輪挿し部門、寄せ植え部門があり、それぞれに順位をつけている。もちろん審査
委員長は高井さんである。
  どうやら高井さんは現役時代農業機械の輸入に携わっていて、ヨーロッパには何度
も出張していたらしい。英会話も出来るようだ。
  そんな経験からか、バラのシーズンオフである春と晩秋にはご夫婦2人で世界遺産
巡りをしていると言う。海外旅行前には夫婦で朝の散歩を欠かさないという。
  そのためか2人とも実年齢より10歳以上若々しく見える。
  2人の宇宙人の見事なバラのせいで修三の毎日は充実していた。
  生まれつき朝に弱い修三も美しいバラを撮りたい一心で午前6時前には自然に目が
覚めるようになった。
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  まずお茶を飲み一服して出す物を出してから、いそいそと撮影に出かける。
  バラは天候によってその表情を変える。同じバラでも、晴れた日は清々しく、曇りの日
は優しく、雨の日はしっとりと写る。
  修三はその一瞬一瞬を写し取るのが楽しい。写した後、画像をファイリングしたり、試
し刷りをしたり、取捨選択をしたりするのもまた楽しみである。
  そして1年経った年末にはこの中から傑作を選び、様々な大きさの翌年のカレンダー
を作る。これがまた楽しい。どれもが時間の経つのを忘れる至福の時間である。

  山中先生と高井さん、2人ともバラ作りでは宇宙人に近い。
  しかし、2人ともプライドが高いのか、相手のバラを見に行った形跡はない。唯我独
尊とも言える。
  1人は歩道沿いにバラを咲かせて、通る人が感心するのを自宅の2階から眺めて楽し
んでいる。
  1人はもっぱら年に2回開かれる切花展に良い作品を出品するために日々丹精を込
めている。だから他人には自分の庭をめったな事では見せない。
  目的は違うが、二人とも人生に目標を持ち、活き活きとして生きている。修三にとって
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素晴らしい先輩たちである。

  今年の北海道は、4月、5月と例年になく寒い日々が続いている。
  6月になってもなかなか気温が上がらない。田植えはもちろん山菜の生育は大幅に
遅れていた。
  当然今年の桜やこぶしの花などは咲くのが遅れ、花ぶりも悪い。天気も悪いせいか、
花に元気がない。
 「バラも今年は開花が送れるのかな?YOSAKOIソーラン祭りが終ったというのに・・・
・・・」
 修三は、例年だと朝6時には家を出て写真を写して歩くのに、今年はまだその意欲が
沸かないでいる。





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第5話 未知との遭遇 その4 ★★★★
























































 














































































          

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