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ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー

  洒落たデニムの作業服を着たおじいさんは庭仕事をしているようで実は修三の動きを
注意深く観察していた。
  五〇枚ちかく撮影し帰ろうとすると、
 「三脚でひっかける人もい.るからね」
  と独り言を言う。
 (やれやれ、三脚を畳んだままで良かった)
  修三の脇の下から冷や汗がつーと流れた。
 「ありがとうございました」
  修三はお礼を言って早々に立ち去った。

  その日の夜、修三はパソコンで朝撮影したバラを見ていた。
 (きれいだ、来年また撮影したいな。しかし、バラはすばらしいんだが、あの神経質なお
じいさんには取り付く島もない、困ったなぁ)
  修三は腕組みをしながら画面のバラを見ていた。
 (それでも今日はきれいなバラを写させてくれたのだから、お礼に写真を1枚上げよう
か?)
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  修三はその日の自信作、薄暗がりに薄日が射したピンクのバラの花の写真をA4判の
写真紙にプリントした。
  翌日の昼休みにビルの地下にあるカメラの高岡でモダンな額縁を調達し、持参した写
真を入れてもらった。そして会社の帰りに、そのおじいさんの家を再び訪れた。
  表札を見ると「高井」とあった。その下に「押し売り、物売り一切お断り」と書いたプラス
チック板が貼り付けてある。他人を一切寄せ付けない雰囲気である。
  修三は恐る恐るインターホンのボタンを押す。
 「昨日バラの写真を撮らせていただいた北山ですが・・・」
 「はい、ただいま」
  高井さんはゆっくりとドアを開けたが、昨日とは違う背広姿の修三に怪訝な顔を隠さ
ない。
 「良い写真が撮れましたので、お礼にお持ちしました」
  修三は照れながら写真を見せる。
  高井さんは額縁の中の写真を覗き込み、自分のバラが素晴らしくきれいに写っている
のに感動したのか、満面笑みを浮かべた。
 「いただけるのですか?」  
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  高井さんは信じられない様子だった。
 「どうぞ、差し上げます」
  修三は写真を差し出し、
 「また来年もよろしくお願いします」
  と付け加える事を忘れなかった。
  この時はこの偏屈そうな高井さんがある意味で大物だとは知らなかった。
  これでこの年のバラの撮影は終った。

  そして翌年、今から1年前の6月の金曜日、(頃は良し)とばかりに修三は早起きし
て、最初の宇宙人、遊び人風の農家の畑へとバラを写しに行った。
 タイミングが良かったと見え、歩道沿いに咲いたばかりの新鮮なバラが修三を待って
いた。
  だが、歩道側からだけじゃ良い写真が撮れない。そこで内側から写させてもらう許可
を貰うべく畑の中に入って行った
  畑にはバラと石楠花のほかに、リンゴ、ぶどう、アスパラガスなどが植えられている。
  しかし、良く見ると畑の周りは一段と高くなっており、隣家の境界となるコンクリートの
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石垣があるだけである。畑の中に農家らしき家はない。
  丁度その時、突き当りの民家の庭でおばさんが洗濯物を干していた。
  怪しまれてはいけないと思い、修三は下から声をかけた。
 「お尋ねします、こちらの畑の農家の家は何処ですか?」
 「農家じゃありませんよ、山中皮膚科の先生の畑ですよ」
  おばさんは1m下から声をかけた見知らぬ男に驚きながら答える。
 (??)
 「ありがとうございました」
  修三はそそくさとその畑から出た。
  自宅に帰ってこの顛末を修三が須賀子に話す。
 「山中皮膚科?私も一度かかった事があるわよ。旧国道5号線のパチンコ甲子園の対
面に赤レンガの立派な病院があるでしょ、あれがそうよ。何でも西野二股の方に立派な
ご自宅があるって聞いたわよ」
 「それだ。確かにその畑の真向かいに赤レンガの邸宅があった。その先生の畑か?ど
おりで畑も広いわけだ」
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  翌土曜日、修三が軽自動車を邸宅の前に駐車して向かいの畑のバラを写しに行くと、
畑の中で麦藁帽子と手甲脚半、地下足袋姿のおじさんがかがんで鎌で下草を刈っていた。
  日焼けした四角い顔とその格好はどう見ても農家のおっさんである。
 (あれが山中先生だ)
  修三は慌てて挨拶をする。
 「きれいなバラですね、いつも写させてもらっています」
 「はい、どうぞ」
  山中先生はどうやら向かいの赤レンガの豪邸の2階から修三の撮影風景を時々見て
いるらしく、仕事の手を休めない。
 (山中皮膚科はいつも混んでいるとか、毎日いろいろな皮膚病を診察してストレスがた
まっているのかも知れない。そのストレスを解消するため畑仕事をしているのか?分か
るような気がする)
  撮影を始めながら修三はそう思った。

  修三は山中先生のバラに満足しつつも、一方で2人目の宇宙人の様子が気になって
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いた。高井のおじいさんというより、バラが今年も順調に咲いているのか気になっていた
のである。 修三は美しいバラを写したいけれども、そのおじいさんの気難しさに訪問を躊
躇していた。
  しかし、あくる日曜日修三は意を決して高井さんの自宅に向かい、恐る恐るインター
ホーンのボタンを押す。
 「昨年バラを写させてもらった北山です」
 「ちょっとお待ち下さい」
  高井さんが出てきて、ドアを大きく開けて、右手の玄関の壁を指差した。何とそこに昨
年上げたバラの写真が飾ってあるではないか。
 「昨年はありがとうございました」
  高井さんは修三に礼を述べながら、庭に案内してくれる。相変わらず庭の清掃は行き
届いており、ゴミ一つ落ちていない。
 「今年のバラは昨年よりきれいですね」
  修三は夢中でシャッターを切る。
  かなりの枚数を撮ってから帰ろうとすると、
 「今週の土日、サッポロファクトリーでバラの切花展があります。良かったら見に来て
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第5話 未知との遭遇 その3 ★★★
































































































































































































































  

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