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かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
  修三はロッカーにはさまれた狭い通路を通る時、前から来た同じ総務課の振袖姿の女
性の胸を鷲づかみにしてしまった。もともと事務服を着ていても胸の大きさが目立つ娘で
あった。振袖姿だからよけいに目立ったのである。
 「はっ」
  その娘は小さい声を上げたが、びっくりしただけで怒りはしなかった。
  修三はこれに自信を持ったわけではないが、その後事務所の女性の胸を何人か触る
事となる。

  数年後、修三は秘書室勤務になっていた。
  ある日の事そこで仕事をしていると、元の総務課に3年前入社した女性が「結婚退職
する」と言ってやってきた。大柄でやはり胸が目立つ娘であった。
 「北山さん、私今日で退職します、お世話になりました」
 「それはおめでとう、こちらこそお世話になりました」
  だがその娘は何故か立ち去らない。
 「どうした?」
 「お約束でしたから触っても良いですよ」
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  と顔を紅くして修三の顔を見た。
 (そうだった。花見で隣に座った時、「退職する前に一度この大きな胸を触ってみたいな」
と言ったんだっけ・・・胸に自信のある娘には言ってみるもんだ)
  修三は思わず周囲を見渡し、他に誰もいないのを確かめると、目も眩やむような速さ
で彼女の大きな胸を触った。
  ぽってりと弾力性のある感触が修三の両手に残った。彼女の身体から結婚を間近に
控えた若い女性の甘い匂いが発散していた。
  今ならセクハラ懲罰委員会にかかり、失職していたところである。

  さて、今や還暦をとうに過ぎた修三はそんな元気はないが、散歩する度にいろいろな
人達に出会うようになっていた。
  そして2年前2人の宇宙人と出会ったのである。

  夏の暑さもようやく消えようとしている頃、修三はいつもと違う西野二股近くを散歩して
いた。
  その時、畑の歩道沿いにきれいな大輪のバラが咲いているのを見つけた。オンコの木
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を背に並んだバラは朝陽に映えていた。
  10種類ほどのバラは病気や虫にもかからず手入れが良く行き届いていた。
 (早起きは三文の徳)
  修三はここぞとばかりシャッターを切り続けた。
 (終わりかけではあるが、そんじょそこいらの素人のバラとはバラが違う)
  修三はそれから1週間毎朝その畑へ足を運んだ。
 (撮影も今日で終わりだな)
  ある日の日曜日の朝、そう思いながら撮影していると、
 「もうバラもおしまいだよ」
  後から声をかけるおじさんがいた。
 「そうですね」
  修三が後を振り返ると、そのおじさんはすたすたと半町ほどある畑の中へ消えて行っ
た。
 (この畑の農家のおっさんか?それにしちゃ派手なポロシャツ着て・・・土地成金の遊び
人か?)
  修三はそう思った。これが最初に出会った宇宙人である。
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  この年の初秋、修三はもう一人の宇宙人に出会った。
  この頃は写す花がなくなったので、軽いコンパクトデジカメに替えて相変わらず散歩し
ていた。
  いつもと違う道を歩いていた時、秋だというのに、格子塀の向こうに何種類ものバラが
整然と咲いているのを見つけた。
  格子に近づいて中を覗き込むと、バラの傍でおじいさんが下草を刈っていた。
  とっさに修三は声をかけた。
 「お早うございます。きれいなバラですね、写真撮らせてください?」
  細面に眼鏡をかけた神経質そうなおじいさんは、一瞬驚いたように振り向いて、格子
の外にいるカメラマン姿の修三を見た。
 「ああ、いいですよ」
 「それじゃ、もっと大きいカメラを持ってきますから」
  修三は慌てて踵を返したが、嬉しさのあまりおじいさんの不機嫌そうな表情を良く見て
いなかった。
  修三は駆け足で家に戻り、ニコンクールピクス5700を軽自動車に積んでその家に舞い
戻った。
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 「お邪魔します
  おじいさんに声をかけ、修三は庭に入って行った。
  おじいさんの敷地は全体で100坪ほどあり、中小路に面した左側(北側)を住居が占
め、右側(南側)は庭になっている。
  さらに庭の奥半分(東側)は芝生を敷いた庭、道路に面した手前半分(西側)がバラ園に
なっている。バラに朝陽も夕陽も十分当たる設計である。
  そのバラは道路に沿って3列に並んでおり、一列に10株ほどあった。列の両側にはコ
ンクリートの踏み板が並び雑草は一本もない。あまりにも端正な庭に修三は感心してい
た。
  最初に目に入ったのは、これまで見た事のない、ピンクにオレンジ色がわずかに混
じったバラであった。朝陽が差し始めたばかりで、薄暗がりの中に妖艶な花だけがぽ
ーっと宙に浮いている。
 (きれいだ)
  修三が呆然として見ていると、
 「踏み石以外は通らない事」
  まずおじいさんに注意される。
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 「ずいぶん年季が入っていますね」
 「定年後に始めたものですから、丁度10年になります」
 (そういう事は今年70歳か?たった10年でこのように出来るのか?このおじいさんは
只者ではないな)
  バラに身体が接触しないように気をつけて慎重に撮影を開始する。
  ところどころビーチパラソルのような大きな白い傘が挿してある。
 「これは日除けですか?」
 「雨除けです」
  おじいさんはぶっきら棒に答える。
  良く見ると、1株に一本くらい、バラの蕾みの下に白い毛糸がぶら下がっている。
 「これは何ですか?」
 「来週末のバラの切花展に出品する枝です」
 (バラの切花展?あまり聞いた事がないな)
  そう思いつつ、修三は踏み石にはみ出た枝を摘み上げ通り抜けると、
 「葉も審査の対象になるんです」
  再びおじいさんに注意される。
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第5話 未知との遭遇 その2 ★★










          






































































































       

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