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 「やりましたねぇ、新琴似天舞龍神が大会初のV3です」
  テレビの中で司会者の大泉洋が大声で叫ぶ。 
 「先ほど踊り終わった後、みんな万感の思いで泣いていましたからね」
  舞台裏のレポーターも興奮している。
  平成18年(2006)年6月11日日曜日午後8時40分、「第15回YOSAKOIソーラン大
賞」が決定した瞬間である。
  札幌市の大通公園、西8丁目のステージでは午後7時から予選通過の10組とシード
権を持つ新琴似天舞龍神とでファイナルコンテストが行われていた。
  昨年の覇者、新琴似天舞龍神が3連覇なるか、昨年予選に落ちた平岸天神が雪辱
なるか、参加者はもちろん観客の間でも早くから話題となっていた。
  名門平岸天神のリーダーは第2位の表彰を受けても不服と見えてにこりともしない。
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  今年のYOSAKOIソーラン祭りは、6月7日から五日間、350チーム、4万5千人が参
加して行われた。
  期間中の前半は雨に当たったが、最終日はその雨も止んで爽やかな天候の下最後
の競演が行われた。
  YOSAKOIソーラン祭りは、15年前に北海道横路知事の選挙の応援団である勝手漣
が立ち上げた手作りのお祭りだったが、今や最初の思惑とは裏腹に完全に商業ベー
ス・観光ベースのお祭りとなった。観客動員数もさっぽろ雪祭りの動員数を超えるまで
なった。

  北山修三は3年前にこの YOSAKOIソーラン祭りの写真を撮りに大通りへ行った事が
ある。
  その時はコンパクトデジカメを使い始めてから2年経っていたが、色の出が悪く、コン
パクトと一眼レフの中間であるニコンクールピクス5700を買ったばかりであった。
 早速、わが家の胡蝶蘭を撮影する。さすがに、色はしっとりとしている。7倍ズームの
せいで周りが大きくぼけ、対象物がくっきりと写る。
 「あら、すごいわね、プロの写真みたい。やっぱり値段値いかねぇ?」
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  妻の須賀子は自分が育てた胡蝶蘭が美しく撮れてご機嫌である。
  修三はこのカメラの試し撮りを兼ねて YOSAKOIソーラン祭りを写しに行ったのであっ
た。ところが7倍ズーム位ではとても遠くの踊り手に迫れない、また踊りが激しすぎてピ
ントが合いにくい。

  片やプロの写真家を見ると、鉄棒選手みたいに盛り上がった両肩にレンズが50cm
はあろうかというカメラを2台ぶら下げて、自由自在に操っているではないか?
 (こりゃ駄目だ、素人の出る幕じゃない。やっぱり動かない花が良い)
  修三はすぐに諦めてしまった。

  北海道の花の季節は短い。
  もくれん、つつじ、桜、梅が一斉に咲いてあっと言う間に終ってしまう。修三は仕方な
く他人の庭のバラやぼたんや石楠花を写して歩くが、それも散ってしまった。
  初夏に入り、庭々では紫陽花、ききょうが咲くが、被写体としてはあまり興味が沸かな
い。
  それでも運動不足解消のため、引き続きカメラを持って朝の散歩を続けた。
 当然いろいろな人達に出会う事になる。
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  修三は写真撮影をかねているため夜明け前に出歩く事はめったにないが、そんな時
は新聞配達や牛乳配達の人に出会う。6時を過ぎると犬の散歩をする人、ジョギングを
する人が圧倒的に増えてくる。
  いつしか修三はすれ違う人達に
 「お早うございます」
  と声をかけるようになっていた。
  子供の頃から人見知りで、在職中も人と会うのが苦手な性質だったが、最近は気楽
に挨拶が出来るようになっていた。組織という枠を離れた個人、そういう気安さか、間も
なく毎日が日曜日になるという気持ちからかも知れない。

  他人の庭の花を撮影中、庭に家の人がいてびっくりする事があるが、
 「きれいな花を写させていただいています」と言うと、たいていにっこりして、
 「どうぞ」と言ってくれる。
  老人の独り暮らし、2人暮らしが増えているせいか、警戒するよりも親しげに話しかけ
てくるおばあちゃんが多い。
 「おじいちやんが写真取ってくれなくて、写した写真を後で届けてちょうだい」
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 「この花は死んだ爺さんに買ってもらった木でね・・・庭仕事は爺さんの仕事だったん
だけど、今は私の仕事さ」と様々である。
  修三の会社のビルの地下にあるカメラ屋高岡の若旦那にこの話をすると、
 「北山部長は人に警戒されない顔をしているんですから」
  40代の若社長は笑う。
 「そうかなあ?」
  修三は素直に喜べない。

  ふと、修三は学生時代の事を思い出していた。
 「北山君、若い女性は声をかければいくらでもついてくるよ」
  同級生の中にそう豪語する男がいた。
  学生達は高校時代受験勉強ばかりしていたせいか、大学に入るとたがが外れてクラ
ブや合コンで女漁りに精を出す者がいる。
  だが、修三から見ても、その男はたいして美男子とは思えない。
 (あいつに出来るなら俺でも出来るはずだ)
  須賀子との縁談が壊れた後で退屈していた修三は実験してみる事にした。
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  札幌駅前の五番館近辺で通りすがりのやさしそうな若い女性に声をかけた。
 「お暇でしたらお茶でも飲みませんか?」
 「??ええ」
  その女性は自分に声をかけられたとは思わず、一瞬戸惑っていたが、素直に修三の
後をついてきた。
 (同級生の言う事は本当だ。だが、相手がいくら学生だとしても、あまりにも無防備では
ないか?)
  そして向かいの西村パーラーへ入ったが、修三は自分で誘っておきながら逆に無警
戒な若い女性を心配した。 
 その後、取り留めのない話をして別れたが、それ以来馬鹿な真似をするのは一切止め
た。 若い時そんな出来事もあった。

  警戒されない顔と言えば、こんな事もあった。
  30歳代の初め、お正月の仕事始めの日、社長の挨拶が終ると事務所でお酒を飲む
習慣があった。
  お酒の強い修三でも午前中の酒は回りが速い。
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第5話 未知との遭遇  その1 ★
































           

         

























































































































































































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