きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー

姿に観客は一様にざわめいた。
  若い女性は顔を背けた。あまりにも刺激的な格好としぐさに修三も思わずドキッとし
た。
  夏休みが終わり、登校すると同じクラスの松山君が教室の片隅でベソをかいていた。
松山君は昨年転校してきた小柄でおとなしい子だった。
  大酒飲みの父親が妻に逃げられ、成人した娘と小学生の息子を連れて何処からかこ
の鉱山に流れ着いたようである。少年は転校生らしく目立たぬように大勢に逆らわない
ようにしていた。  
  どうやら仮装盆踊りのストリッパーは松山少年の父親だったようだ。松山君はみんな
に馬鹿にされ小さくなっていた。
  その事件があってから修三は松山君に声をかけてやるようになり、松山君も少しずつ
胸襟を開き、2人は友達になっていった。
  すでに雪が何度か降っていた11月のある日、修三は授業が終ってから松山君の家
に遊びに行った。
  松山君の家は喜楽町の橋を渡った川向こうの山裾にある。家は下請け会社の持ち物
らしく修三達が住んでいるような家ではない。見るからに造りが粗雑であった。
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  北紋バスのバスガイドをしているという松山君の姉はまだ帰宅していない。
  あたりが暗くなって寒くなってくると、松山君は黙々と薪ストーブに火を入れた。友達を
暖めようという心遣いだ。
  ストーブに投げ込む薪を見ると、薪は家の外に積んであったと見え、所々雪がついて
濡れていた。これでは火付きが悪い。
 「松山君、ストーブの周りに次の薪を並べておくと乾いて燃えやすくなるよ」
  修三は自宅でやっている事を思い出して教えた。松山君は素直に従った。
  そして1時間も過ぎた頃、松山君の姉が帰って来た。
  バスガイドをしているだけあって、器量良しでスタイルも良かったが、そのような環境で
育ったせいか弟とは違い気が強かった。
 「和夫、何でこんな事するの?汚いでしょう?いつも言っているでしょう『家の中をきれい
にしておきなさい』と・・・・・・他人が見ると格好悪いでしょ」
  年頃の色気がついて、恋人もいるという姉は弟をまくし立てた。松山君はベソをかいて
ストーブの周りの薪を片付けた。
 「お姉さん、ボクが教えたせいです、ごめんなさい」
  修三は姉に謝ってそそくさと家を出た。
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  お正月が来る前、松山君とその一家は鴻之舞鉱山から姿を消した。

  鉱山は身分や職種によって住む場所が決められていた。 
  中心の住吉町には住友の役職員、そして小中学校の教員住宅があった。隣の元町は
学校や市街と決められ、また数少ない商店や飲食店があった。
  下請け業者や自営業者、そしてその雇われ労働者、いわゆる社外の者の住む町は金
竜町と他の一部の地域に限定されていた。
  人口の9割を占める鉱員(労働者)はその他の町に分かれて住んでいた。 

  小学校4年の時、長男の金夫が結婚した。
  鴻之舞小学校の教員である金夫が結婚すると、住友の職員が住んでいる住吉町の
社宅が当たった。
  ある時、兄の家へ遊びに行って夕方共同浴場へ行った。
  鉱山ではそれぞれ町ごとに鉱山が管理する共同浴場があり、関係者の誰でもが無
料で入浴出来た。
 「見慣れない子だな、何処の子だ?」 
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  洗い場の隣にいたおじさんが何とはなしに呟いた。住友の幹部職員のようであった。
 修三はこの時、
 「鉱員風情の子が入るところじゃないぞ」
 と聞こえ、
 (二度とこの町の共同浴場には入るまい)と思った。

  また小学校5年の時、同級生の女の子の誕生会に呼ばれた。
 「北山君、今度の土曜日、私の誕生日なの、午後1時に家に来てね」
  住吉町に住む職員の娘からの誘いだった。
  その頃、修三は世の中に誕生会というものがある事さえ知らなかった。
  興味を持った修三は「一度見てみたい」と家族にも知らせず、のこのこと出かけて行っ
た。
  修三は今まで入った事のない一戸建ての洋風の社宅の応接間に通された。
  着飾った7人ほどの子供が集まり誕生日を迎えた女の子にプレゼントを渡していた。
修三はプレゼントの習慣にも驚いたが、やがて出てきたお萩にも驚いた。
  2つ並んだお萩の片方は白餡であった。初めてみる白餡のお萩だった。帰って姉達に
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報告すると、
 「そう、良かったね?」
 (いずれお前にも分かるよ)
  姉たちは取り合わない。
  修三は単にクラスの級長だから義理で呼ばれた事に気が付かなかった。
  職員の子弟の誕生会に呼ばれ、普段着で、しかも手ぶらで行って、自分の誕生日は
したくとも出来ない。そんな労働者の子弟は二度と呼ばれなかった。
  姉達もそれぞれ成績が良かったから同じ経験をしたのに違いなかった、
 「俺達とは住む世界が違うんだ」
  修三は完全に打ちのめされた。
  修三は早くこのような狭い窮屈な世界から逃れたかった。

  正午前に遠軽に戻った2人は道道沿いの回転寿司で昼食を取り、長男金夫の家へ向
った。
  尋常高等小学校しか出ていない金夫は戦時中の代用教員から始まり、通信教育と
スクリーングでようやく教員の資格を取った。
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  それから遠軽周辺の小学校を転々とした。同じ管内の教員の玉緒と結婚し、遠軽の
街外れに自宅を建てていた。
  その兄も18年前に退職した。子供も2人とも片付き、今は2人で年金暮らしをしてい
る。年老いた2人は病院通いが絶えない。
 「そうか、34年振りに鴻之舞に行って来たか?今となってはもうさっぱり分からないだ
ろう?」
  後は、2人とも自分達が病気でいかに大変か、一方的に話すだけであった。暑いのに
冷たい飲み物も出て来ない。
 (2人とも昔と何も変わっていない、年を取っただけだ)
  妻の手前もあり、修三は寂しくなって金夫の家を早々に出た。
  札幌への帰り道「遠い遠いはるかな道は・・・・・・」と、どこからか聞こえて来るような気
がした。



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第2話 銀色の道 その4 ★★★★
























































 
















































































      

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